16日本語学演習Ⅰ 方言

武田拓 日本語学演習Ⅰ 1997 奥羽大学 記録尾坂淳一
(方言)

「方言研究法」
=「視点」→データ集め→分析
=「目的」→1分布
     →2変異
     →3記述

方言研究の意義
=言語学的意義
=方言の評価
=日本語教育

方言研究の対象
=方言の定義
=ある国語内の地理的変種
=ある地域の言語体系
(方言研究が地方特有語とは俗説)

=単語=俚言(俗説で方言)、同形類義語、同形同義語
=アクセント、滝、イントネーション(俗説で~弁)
=音声(俗説で訛り)
=文法
=地理的視点による方言(地方、県、市町村、区、字)
対象人物=生き抜き
    =年令差を考慮

「標準語と共通語」
標準語=日本語の理想的言語体系、実在しない
共通語=東京方言ベース、実在している

標準語
‐明治時代日本国での統一言語(国策)
‐三宅米吉「くにぐにのなまりことばにつきて」
=自然につくる↔雅言主義、多数決主義
‐上田万年「標準語に就きて」
=ある方言を洗練しつくる
‐国語調査委員会(上田万年中心)
=「東京方言をベース」

「口語法」「口語法別記」東京方言中心の口語基準

共通語
‐国立国語研究所「地域言語調査」東京語的だが方言的特徴がある
‐梅棹忠夫「第二標準語論」標準とすることに反発
=共通語=標準語の実現体
=共通語=標準語+eエラー

共通語=並存性がある「わたし」「わたくし」
   =日常的
   =言語要素
   =全国共通語と地方共通語

標準語=並存性がない
   =公の場
   =言語体系

「日本人の言語意識」
上代 外国語扱い(風土記、万葉集)の方言

平安時代 京都=優、東国=劣 価値意識

鎌倉時代 東国方言の価値の上昇「太平記」公家は坂東声

室町時代 「人国記」東と西に格差

江戸時代 東と京言葉の相対化、地域の評価=言葉の評価

明治時代 東京方言標準語

現在 方言評価

「方言調査法、調査投法」
a観察法(実態調査、妥当性高い、労力が少ない)
関与型傍受法自由会話型
関与型傍受法話題提示型

b質問法(能率的、体系的、属性・出生が明確)
面接法(なぞなぞ型、共通語翻訳式、読み上げ式)
‐音声、アクセント、能率的
‐ホーリーン効果(調査員の影響が大きい)
‐ウィリアム・ラボブ「階層と発音」階層の高い人はrをはっきり言う

アンケート法
‐自由記述式、選択肢式
‐段落尺度法
‐集団記入法、留置法、郵送法

c調査票
先行調査(調査の目的、調査項目)
インフォーマント(生え抜き、外住歴)
依頼(知人のつて、公的機関、飛び込み調査、ランダムサンプリング)

d「調査地被害」の考慮

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐前期

1、分布
言語地理学、方言区画論=中心課題
=地理的広がり、分布域、地理的研究
‐「日本言語地図」国語研究所
‐「方言文法全国地図」国語研究所

「威信と言葉の恣意性」
威信=都会の言葉は真似される
言葉の恣意性=言葉は必然性があって決まるわけではない

偶然同じ言葉が異なる地域で発生するのではなく元々一つだった

言葉の歴史の推定
「起きよう」古オキベー→オキンベ→新オキッペ

柳田国男「日本のはずれの言葉は古い言葉」=「京都古来の由緒正しい言葉」

「研究の範囲」
語彙、文法、音韻、アクセント
音韻とアクセントについては独自変化の可能性

「地図化の歴史」
1800年代ベンカー「ドイツ言語地図」方言区画論
青年文法学派「音韻変化に例外なし」
1902年ジリエロ「フランス言語地図」言語地理学
「語には特有の歴史がある」
1905年国語調査委員会「音韻調査報告書」
標準語制定
昭和初期柳田国男「蝸牛考」方言周圏論
古ナメクジ>ツブリ>カタツムリ>マイマイ>デンデン虫新
小林好囚「方言語彙学的研究」
藤原与一「瀬戸内海言語地図」
昭和30年国語研究所「糸魚川言語地図」社会言語学柴田武、グロータス、徳川宗賢
松本修「全国アホバカ分布考」

「言語伝播」
「隣接分布の原則」a地点→b→c(連続的でa→cはない)
aba分布=古新古(歴史推定)
abcba分布
abcdcba分布

例外1「飛び火的伝播」
a b孤立 c
└────┘交流(移住、海上航路)

例外2「伝播ルートの変化」
明治在来線 東京→宇都宮→須賀川
現在新幹線 東京→郡山→須賀川
東京アクセント化 東京方言が茨城や福島を越え仙台へ伝播、若年層が中心

aba分布が新古新と逆転

例外3「偶然の一致」
肩車 相馬「クビコンマ、カタコンマ」
   関西「カタコンマ」

「周辺残存の原則」
中心地=新型、周辺=古型
中心地から周辺へ=「威信」(プレステージ)
 aa分布 対立がない(同じ言葉)、新古が不明
 ab分布 中核都市の判断
 a0分布 対応する語がない
 ↓
 中心地の判断(ゆるい原則)
 ↓
 グロットグラム作成(語形の統合)
  促音の有無
  長音の有無
  対象地域の音声の特徴「ガ」「カ゜」「シス」「キチ」
  記号の対応

「方言区画論」
方言を基準にした土地の分割(現状的、共時的)
↔言語地理学(歴史的、通時的)
東条操(国語調査委員会)日本独自の研究
‐音韻分布図
‐文法分布図
‐方言以外の基準による区画(第三次案)
「栃木茨城の人は関東方言と意識し福島の人は東北方言と意識している」
「音韻、語法、語彙を統合」
‐「大日本方言地図」昭和二年(第一次)
‐「日本方言学」昭和二十八年(第三次)
 ↑
都竹通年雄
「基準が曖昧」
「手順手続きが不明」
「名人芸」
 ↓
金田一春彦
基準を明確化体系化
アクセントによる区画
 ↓
飯豊毅一「南奥方言と関東方言の境界について」
加藤正信「北奥方言と南奥方言と越後方言の境界」
アクセント、語彙、文法、音声を総合、使用頻度により区画
 ↓
計量的区画(コンピュータ分析)
‐多変量解析、林の数量化Ⅲ類

2、変異
社会言語学
同一地点(同一の言語共同体)での個人差

共通語化

社会的分析(グロットグラム=分布+変異)

1960年代からまだ三十年の歴史しかない研究
「同質性の仮構」同じ地域の人の言語は同じ
いち地域から多人数を調査し数量化

言語の変化(通時)年令差
言語行動の法則(共時)

国語研究所「地域社会の言語生活」
井上史雄「新しい日本語」
加藤正信「東京における年令別音声調査」
飯豊毅一「言語使用の変遷」
佐藤和之「方言主流社会の方言と標準語」
荻野綱男「大阪方言話者の移住による言語変容」

3、記述
記述言語学=基礎研究
一ヶ所に固定して調べる方言体系(音韻、アクセント、文法)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐後期