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現代を「鬼滅の刃」で読む(拾):身の回りの人の幸せのために

「親ガチャ」という言葉が巷を少し騒がせました。発信元の若者たちの中にはそこまで深刻な言葉としてではなく、「しょうがねえなぁ」「やれやれだぜ」という意味合いも込めてライトに使っていた人もいるようです。

むしろ、団塊ジュニアあたりが強めに反応してしまった気もします。しらんけど。

哲学者のマイケル・サンデルは、その著書『実力も運のうち 能力主義は正義か』で、「親ガチャ」の考えを「メリトクラシーの世界を悠々と泳ぐ者たち」の学歴や業績に向けました。

つまり、彼らは学歴や業績を「全て公正に自分の努力で得た」ような顔をしているけれど、その学歴を得るために中高一貫の私立進学校に通わせてもらったり、予備校に通わせてもらったり、受験料や学費のことは気にせずにお受験の勉強だけに集中するのですよと安心させてもらったり、と言った環境を当てがわれたことは記憶の中から消え去っている、と。

そして、「公正なテスト」において1点でも高得点を得た者が、利益の総取りをする権利を得る、と信じている場合があります。このテストが公正ですか?とサンデルは指摘するわけです。

日本でもありましたね。明治維新後、高等教育学校や役人の登用試験は武士以外にも門戸が開かれます。しかし、その試験内容はある程度の家格が高い武士が通っていた藩校や私塾で学んでいた人に有利な試験問題です。この試験に女性の受験は想定されていなかったのですから、それ以降のハードルがいかに高く残ったのかがうかがえます。

さて、メリトクラシーの側にとっては、「門戸を開いた」という事実が大事なのです。武士以外の者でも受験できる試験を競争試験で突破したという事実は、自分が統治する側の地位に就くための「正当性」となるからです。

そっち側の人は言うのです。自分たちのようにしたかったら(したいと言っていない人に向けても言います)、試験に合格してみろと。

あの野口英世のすごさは、東京帝国大学の医学部を経ずに、医師開業の国家資格を取得したことです。自動車教習所に通わずに運転免許センターで合格するようなものです(いや、違うか)。

マイケル・サンデルは、アメリカのオバマ元大統領は高学歴が大好きなのだと言います。そして、オバマさんは公に、高学歴者は頑張ってきたのでその頑張りに見合う地位やお金を獲るのは当然の権利です、「みんなも学びなさい」という主張をします。

マイケル・サンデルはこうも続けます。トランプ元大統領を押した人たちは、頑張りたくても頑張れない環境に置かれてきた人たち頑張っても頑張っても越えられない、そもそも頑張るまでのハードルが高すぎると思った人たちなのだと。

ヒラリー・クリントンがどちらからも好かれなかった理由はもうわかりますね。

さて、鬼滅の刃から遠ざかってしまいましたので、少し近づけます。禰豆子、本当に良い子ですよね。炭治郎が弟妹達に苦労を掛けてしまっていることから、大変な思いさせてごめんね、ごめんねと言うと、禰豆子は言葉を返します(回想シーン)。

禰豆子(夢):「どうしていつも謝るの?貧しかったら不幸なの?綺麗な着物が切れなかったら可哀想なの?そんなに誰かのせいにしたいの?お父さんが病気で死んだのも悪いことみたい」

望んでいない競争に放り込まれて、それにとらわれるな、ということでもあります。世の中にはたくさんの「シゴト」があります。会社員や公務員になるだけが仕事ではありません。

しかしながら、否応なく「偏差値」という価値体系のなかにマッピングされると、自分が目指すシゴトには関係ないと思いながらも、心は振り回されてしまいます。自分は、出来ない子なの?と。

偏差値だけではありませんね。学歴や年収やら何か序列をつけやすい尺度です。メリトクラシーに毒されると「何とかランキング!」が好きになってきます。

禰豆子(夢):「人間なんだから誰でも…何でも思い通りにはいかないわ。幸せかどうかは自分で決める 大切なのは“今”なんだよ 前を向こう 一緒に頑張ろうよ」

何とかランキングや何歳だからとか、男性だから女性だから、ということに必要以上に振り回されるよりは、自分と周りの人が幸せや平和を感じられることに集中したほうが良さそうです。

炭治郎:「考えろ考えろ自分にできること。今のおれにできることは。」
炭治郎:「自分に合わせた呼吸と剣技に…最も自分の力が発揮できる形に変化させ、考え抜いたから呼吸は分かれて増えていったんだ。変化するどんな形にも柔らかく」

能力、経験、人とのネットワークは、本気で取り組んだ点同士を結び付得ると言います。

そして、身の回りの人の幸せのために自分が取り組んできた能力や経験や人が「斜め隣くらい」のものと結びつくと、素晴らしいイノベーションが起こる可能性が高いです。

(コミックスより)


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