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魚探を見ながら

「おかしいな、いるんだがな」魚探を見ながら船頭が呟いている。これは接客専門用語で、翻訳すると「こんなに魚がいるのに、なんで釣れないんだ。早く釣れよ、下手くそ」正確にはこういう意味である。

釣船は釣り客を船にのせて魚の釣れそうな場所に移動し、船頭が魚のいそうな深さの棚を指示して釣り客に釣らせる、のんびりした釣りに見える。安全な釣りをするために船頭が絶対権限を持っている。釣れそうなポイントを決めても潮流があるので常に流される。竿をあげて釣れそうなポイントに移動してまた釣り始める。夜釣りに出かけて、沖で電気系統のトラブルで集魚灯が点灯せずそのまま帰港などというハプニングもある。

丘で見ていると退屈そうに見えるが、釣りの当事者は大変だ。一瞬たりとも頭と体が休まる時がない。静かに見えるようでも海には波がある。常に上下に揺れている。乗り物に弱い人は直ぐにダウンする。ダウンしても他の釣り客がいるので岸に帰ってはくれない。

同じ船に乗っているのに、釣果が違う。これは、頭の使い方の違いが結果に出たのだ。釣果をあげる人はいつも作業をしている。釣りの仕掛けも消耗する。棚の深さは適当なのか、潮の流れはどうか、今は上潮か下潮か、餌は新鮮か、針先が鈍っていないか、ハリスはピンと伸びているか。常に魚のことだけ考えている。

船も小さいので上下動に加えピッチング、ローリングが加わる。波や揺れの大きさによって釣りやすい体勢を取らなければならない。釣り続けるのはなかなか大変であるが楽しいものである。気がつくと帰りの時間である。

無の境地ってこんなものかな。違うな、魚のこと考えているから。数息感もこれと似ているな。いや大きく違う、無の境地になるために数のことを考えているから。


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