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【雑記】『GOAT』という文芸誌が爆誕したので

 心に残る一文がある。
 インプットによって、大きなインスピレーションを得ることがある。
 まず作品の内容というより、一文のみに特化して語ることを許してほしい。
 小学館から創刊された『GOAT』という文芸誌に掲載されている島本理生さんの短編小説『愛することを知らない子は』の一文からの引用。

 中央図書館は天井が高くて、声の大きさに気をつけてもそれなりには響くが、星生の父親は特に気にする様子もなく同じトーンで喋った。親子そろってマイペースな性格なのかもしれない。

島本理生『愛することを知らない子は』

 考えたことは別にあるのだけどとりあえずこの文章はなんなのか。まず、分析をしたい。
 情景描写(中央図書館は天井が高い)→行動描写(星生の父親は喋った)→心理描写(親子そろってマイペースな性格なのかもしれない)
 読み手として、まず情景が広がり、その情景の中で人間の行動が見え、主人公はこう思った。非常にわかりやすく読みやすい構図だ。
 一番印象的な文章は、「声の大きさに気をつけてもそれなりには響くが、」という部分。図書館という空間の解像度がぐっと高まる。
 しかも「響くが、」の「が、」という逆説の接続詞が後半にかけての文章の期待感を高める。一文単位の展開でも面白みがあふれている。
 以上は自分の勝手な解釈だと断っておく。

 一番気になったのは、「図書館という空間は音が響く」ということ。つまり「空間」を描写していること。
 しばらく「空間」について考えていた。ここから作品とは一切関係ない「空間」についての話です。
 今、僕の目の前にも空間は広がっている。それは空気でもある。視線の行きつく先、ディスプレイという物体に阻まれ空間は切断された。
 ではこうやって思考し、脳神経が行き交っている神経を伝達する「間」に空間はないのか。脳内のAから脳内のBへ電気信号を伝達するのだから、AとBの間には空間なる概念は当てはまらないのかもしれないけれど、時間ではなく距離的な「間」はある。仮にこれも広義の「空間」だと定義したとして……じゃあ、空間ってなんだ。なんなんだろうとずっと考えていた。仕事に集中できないくらい思考が止まらなくて困っていた。笑
 空気も空間だし、AとBの距離にも空間がある。このAとBは必ずしも物体でなくてもいい。例えばAを幸福として、Bを不幸とする。すると幸福と不幸の間にも空間が生まれる。
 ネットで調べると哲学者たちは好き勝手「空間」について論じているのがわかったけれど、今のところそれはどうでもいい。知りたいのは文学における空間。
 小説においてこの「空間」を主題にしている小説はないのだろうか。調べたけれど、上に書いた意味での「空間」を題材にした小説はないように思えた。建築的な空間でもなければ、ミステリーの密室的な空間でもない。かといって、近いかもしれないけれど哲学的な空間ともまた少し違う。例えば文学では肉体について描かれたりする。この文学的アプローチで描かれているニュアンスをもって「空間」が描かれている作品。そういう作品があればだれか教えてほしい。
 てか、ないなら自分で書いてみたいな。とも思う。けれど描ける自信はない。資料集めてそれを読んで、自分の中に落とし込んでアウトプットするには圧倒的に実力不足のような気がする。
 ああ、すいません。よくわからない話ですね。それはそうで、自分でもよくわかっていないものを話しているわけですから、読まれている方は意味不明でしょう。単なる言葉遊び程度の稚拙なものかもしれません。
 とにかく、「空間」ってなんだ? って話で、そこに哲学的な答えも欲していないけれど、あの一文をきっかけに「空間」を物語として辿っていくのって面白そうだなと思い至った話でした。
 
 GOATは500ページ以上ある文芸誌ですから全部はまだ読めていませんが、島本理生さんの『愛することを知らない子は』はとても好きな作品でした。
 主人公は女性、国語教師でバスケ部の顧問です。印象的だったのは女生徒のひとりが性加害を肯定して主人公と問答しますが、その生徒の家庭環境から、とても難しい状況に置かれます。それから主人公の出した愛の解は、正しいと思えました。しかし正しさの奥に待ち受けている外的要因の不条理さというか、自分の中にある矛盾というか。いろんなものが混ざって、愛の答えなんて、幸せとは何か、くらい得体のしれないものだと改めて考えてしまいました。ただ、この小説の中でたしかに描かれている愛を享受する。それだけで何かが満たされていく感覚。それだけでいいのだと思える作品でした。

 
 GOATの裏表紙にも「小説、詩、短歌、エッセイ、哲学。ジャンルも国境も越えて、 GOAT かつてない文芸誌、ここに爆誕!!!」とあるように、文芸なんて、ジャンル気にせず、面白いの形をみんなで共有しようぜ!ってノリがすごく好きです。中身も文芸文芸しててすごくいい。次号も必ず買う!
 ちなみに今回のGOATは創刊号で510円、増刷されるほど売れているらしい。ただこの金額じゃ刷れば刷るほど赤字ではないだろうかと勝手に心配している。しかし、出版不況を打開しようとする心意気に激しく感銘を受ける。

 
 あわよくば、このGOATに掲載されたい!!と思いまして、「第二回 GOAT×monogatary.com文学賞」にも作品を出しました。
 お題は「破る」だそうで、

 ◎お題「破る」  
以下の3つのルールをすべて破ってください。
1、きれいごとだけ書いてください。
2、誰も傷つけないでください。
3、噓をつかないでください。

第2回【GOAT×monogatary.com文学賞】が本日から募集スタート!第1回に続き、選考委員長に加藤シゲアキ氏を迎えて、受賞作品は「GOAT」第2号に掲載! - monogatary.com

 予想を裏切り、常識を打ち破る作品に出会いたい。「第2回GOAT×monogatary.com 文学賞」開催記念!「GOAT」編集長・三橋 薫さんスペシャルインタビュー | spotwrite - monogatary.com

 書いてみました。
 一作目→意味不明怪作。→お蔵入り
 二作目→いい感じだがお題のアプローチが弱い。→改稿してエブリスタのほうで使った(『わたしは、』)
 三作目→お題をダイレクトに反映しすぎてカオス。→採用!

 ということで書いたやつのリンクを張っておきますが、お題を忠実に守りましたのでハードです。女性蔑視だったり、動物を痛めつけるような思想や行動、描写が含まれていますので、気を付けてください。作者の人格すら疑われそうなので、読まないでいてくれてありがとうまである。
 
 あらすじはこんな感じです。
 動物が知能を持つ近未来の日本で、主人公・村田は動物と共存する社会を嫌悪し、上司のコアラルス部長を殺害。なぜか昇進し、力こそ正義の社会に適応したかに見えたが、ゾウが支配する新体制のもとで粛清される。追い詰められた彼は、自分の強さも成功も幻想だったと白状し、絶望の中で死を受け入れる。弱肉強食の社会と、自己欺瞞の末路を描く現代社会と表裏一体の物語。
 【んなもんムリゲーだろ | 物語詳細 - monogatary.com

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