アイディアは、誰でも考えられる?
いまや多くの情報が、ネットで簡単に手に入ります。
自分の意見を発表する機会も飛躍的に増えました。
アイディアを考え、意見を出し合う習慣も
日本にも根付いてきたように思います。
その一方で「アイディアはあるけど、先にすすまない」という
声もよく聞きます。
今日は、アイディアの考え方、見方について
ちょっと書いてみます。
1 アイディアと思いつきは、違う。
「ひらめいた!」
アイディアを表現するときに、よく言われます。
「降りてきた!」
こんな風に言う人もいます。
アイディアは、思いつくもの、浮かぶもの、という
共通認識があるのではないでしょうか。
ところが、プロの現場では、アイディアは
そうした「瞬間的」なものではありません。
もちろん、画期的なアイディアを思いつくこと、
ということはあるとは思いますが、そのような奇跡は
人生の中で、そう度々あるわけでもなく
たいていの場合は、「意外と普通の考え」だったりします。
コピーライターに入門すると、アイディアを考える、という
ことが、最初の洗礼となります。
寝ても覚めても広告コピー、アイディアを考えるのですが
新人のコピーライターに名案がいきなり「降りてくる」ことも
なければ「思いつく」ことも、ほぼありません。
アイディアはふと瞬間に生まれる、という話を聞き、
寝る前にはベッドの脇にメモ帳を置いておきます。
寝入りばなにふっと思いついたアイディアをメモ帳に
走り書きをしておき、翌朝、それを清書しようとするわけです。
ところが、同じようなことをした経験のある方なら
すぐにわかると思いますが、翌朝になって覚めた目でメモを
見返すと、そこには使い物にならない「思いつき」だけの
文字の羅列しかありません。
がっかりしてまた机に向かって考えるのですが、
僕の個人的な経験でも、アイディアは思いつくものではない、と
かなりの確率で断言できるのです。
2 アイディアに酔う状態とは?
アイディアは、スタイルから入っても、うまくいきません。
テレワークの発達とともに、気持ちのいいリゾート地で
仕事をしよう、という新しい習慣が生まれつつありますが
この「ワーケーション」には僕も賛成ですが、だからといって
リゾート地だからいいアイディアが生まれる、とは限らないと
思っています。
昔の話になりますが、大きな仕事が来た時、
コピーをカフェで考えていたことがあります。
当時はまだコピーライターとして駆け出しで、
一人前のコピーライターに憧れていた若者でした。
「コピーをカフェで書く」「バーで飲みながらいいコピーができた」みたいな
話を聞き、自分もさっそく真似をしてみよう、と思ったわけです。
原宿のカフェでノートを広げると、不思議なことが起こりました。
面白いように筆が進むのです。
次から次へと、言葉が生まれてきます。
夢中になってそれらの言葉をノートに書き、
数十案のコピーにまとめました。
たしか、ラジオコマーシャルの原稿もつくった
記憶があります。
急いで事務所に戻り、師匠に見せます。
「全部、ダメ」
無情なひとことが、待っていました。
その日は締め切り前日だったこともあり
結局、師匠がすべてのコピーを書くことになりました。
カフェで天から舞い降りてきた言葉たちは、
どうしてダメだったのか?
その理由は、師匠の原稿をみて、すぐにわかりました。
3 第三者目線の大切さ。
アイディアを出しても出してもうまくいかない、と言う時は
「ひとりよがり」であることが多いです。
本人は、そのアイディアが気に入っているのですが
第三者からみると、まったく面白くない、ということが
よく起こります。
「自分を冷静にみるもうひとりの自分を持て」とは
よく言われることですが、アイディアを考える時には
第三者視点をもつことが、とても重要です。
原宿のカフェで僕が失敗したのも、この「ひとりよがり」でした。
たしかに「思いついた言葉」は、新鮮な響きのある言葉
だったかもしれません。
表現スタイルも、いつもと変わった表現ができたかもしれません。
しかし、そうして作った広告コピーは、商品とはまったく関係のない
ストーリーになっていました。
そうです、ポエムになっていたのですね。
広告に限らず、ポエムのようなアイディアには
たびたび遭遇します。きれいな言葉が並んでいるけれど、
何が言いたいのか、わからない。
どこかで見たようなフレーズが散りばめられているけど
中身がなにもない。
そんなポエム風のアイディアは、
プロの現場ではまったく役に立ちません。
第三者の目線をもてれば、アイディアが果たす役割、
着地点を考えることで、的を得たアイディアをつくれるようになれます。
目をつむってバットを振ったら場外ホームランだった、
という奇跡は、一生に一度あるかないか、でしょう。
プロの仕事は、そんな奇跡に頼る余裕はないわけです。
今日は、アイディアの基本的なことについて、考えてみました。
少し辛口な文章になりましたが、自戒も込めて思っています。
自由にアイディアを考え、ディスカッションすることは
すべての基本です。そのためにも、成熟したアイディアメーカーが
もっともっと生まれてくることを願っています。
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