USPの逆襲
クリエイティブの記事が続いたので
今日はマーケティング戦略の話のうち、USPについて
書いてみます。
1 ブルーオーシャンを探せ。
かつて、マーケティング戦略のひとつにポジショニング戦略ということが
よく言われました。競合と自社を比べながら、競合に対する優位点や
競合がいない場所、ブルーオーシャンな位置を探すための
考え方ですね。
なかでもポジショニングマップは、そのわかりやすさから
プレゼンテーションでは、多用されたような記憶があります。
今でも時々、使われているかもしれませんが、
4象限の升目をつくり、そこに競合各社をプロットし
自社の位置づけを考えていく、というものです。
ご覧になったことがある方は、多いと思います。
ポジショニング戦略は、視覚的にもわかりやすく
次の方向性を示しやすいと広告制作の現場でも、いろいろと活用
されていたように思いますが、今では使われることが少なく
なったようです。
ポジショニング戦略はわかりやすい反面、都合の良い「ブルーオーシャン」を
探すことになります。もともとが「空いているスペース」を探すわけですから、
その空白地帯が自社のブランドや商品の特性と一致しているとは限りません。
むしろ、無理がある「ポジショニング」をとっていることが
多かったような記憶があります。
なぜ、その無理が通用したのか?
当時は広告によって、作為的なポジショニングをとることが
可能とされていたからです。テレビCMを中心とするマス広告がまだ跋扈しており、
その効力があったために、広告クリエイティブ によって、
本来の商品やブランドとはあまり縁がないような「ポジション」を
作り上げることができたからだったように思います。
もちろん、無理やり、とは言いましたが、商品やブランドとの
ブリッジは多少なりとも必要で、そこは戦略的にもちゃんと
考えてありました。
2 広告のお化粧には無理がある。
80年代から90年代にかけて、マーケティング界を席巻した
かのようなポジショニング戦略ですが、その無理が見えてきたのは
デジタルマーケティングの発達とともに、だったように思います。
多少はブランドや商品の性格とは離れているポジショニングでも
広告による「お化粧」によって成立させてきたものが
マス広告の力が相対的に弱くなり、広告の都合良さがSNSの発達に
より露呈してしまいました。
本来的にブルーオーシャンの位置にあったブランド、商品は
それでも影響は少なかったかと思いますが、広告的な演出で
ポジションをつくっていた商品は、苦戦が続いたのではないでしょうか。
「知的女性のための」「プレステージを大切にする男の」のような
ちょっと浮いたコンセプトが当時には見られましたが、
やはり無理がありそうなことは、用意に想像つきますね。
3 素直が、いちばん。
ポジショニング理論とともに、昔からマーケティング戦略、広告戦略で
よく出てきた考え方に、USP(ユニークセリングポイント)があります。
これは、商品が本来もつ特徴をもとに、類似商品にはない事実、を見つけて
いくというものです。
ポジショニング理論と比べ、商品固有の事実をもとにしているだけあって、
USPのほうは説得力があります。広告によりお化粧する必要もなく、
商品がもつ特徴を、より印象的に伝えていくことで、訴求力のある
広告ができます。
USPの最大のデメリットは「そもそも、他社と明確に差別化された特長がある
商品はあまり多くない」ということにつきます。本来、マーケットをしっかり調べ、
競合他社に勝てる商品を開発していれば、自ずからUSPをもった商品が
生まれるわけですが、技術力はどのメーカーも接近しているため、
画期的なUSPは、なかなか難しいんですね。
ところが、デジタルマーケティングの発達とともに、このUSPの考え方が
再び表舞台に出てきたように思います。
4 事実だけを知りたい時代。
先ほど、ポジショニング理論のお話で、広告のお化粧や演出が無理に
なってきた、と書きましたが、その対極ともいえるようなことが、
今起こりつつあります。
僕が授業をもっている大学で学生たちに話を聞くと決まって同じような
答えが返ってきます。
「広告で余計なことを言われるより、商品の事実が知りたい」
オンライン上の情報だけでは、何が正しいのかの判断が難しく
なっています。フェイクニュース、やらせも多く、また主観的な記事も
多いことから、「ほんとうの事実、実態」がわかりにくくなっているんですね。
SNSマーケティングが支持を集めるのも、知り合いの口コミなら信じられる、という
ことにあると思いますが、信じられるものが限られているいま、いちばんの広告は
商品そのものの事実、なのかもしれません。
僕にとって、このUSPという考えは、80年代の懐かしい理論だったのですが
最近、この言葉をよく聞くようになりました。
商品開発の現場でも、かつてのように開発者の「勘」や定量的な「調査」に
頼ることなく、リアルな生活者の声、実感を収集しながら、テストを繰り返して
より良い商品にしていく流れが主流になっていることも、自然なことだと
思われます。
商品開発コンセプトも、かつてのように技術力だけを頼りにしたものでなく、
ブランドコンセプトをもとにした考え方も増えてきました。技術の優位性を
常に求めるのは大変ですが、ブランドコンセプトであれば、開発だけに
負担を強いることもなく、USPを作り出すこともできそうです。
USPについて、マーケティング環境の変化によってその受け止め方が
変わってきていることを書いてみました。広告、マーケティングは、
時代によって変化していくものなので、唯一絶対の正解があるわけでは
ありませんが、ウォッチしていくと、新しい流れも見えてきて
面白いのではないか、と思っています。
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