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クリエイティブの仕事は、大変なのか。

僕は大学で広告クリエイティブの授業を行っている関係で
若い人からよく聞かれます。

「広告クリエイティブの仕事に関心はあるが
仕事がハードではないか」

その答えは、イエスでもノーでもあるのですが
今日は、広告クリエイティブの仕事の実情について
少し書いてみます。


1 マスコミは、体力?

僕がコピーライターに入門した頃は、広告に限らず
マスコミ業界はめちゃくちゃな労働環境でした。

打ち合わせが始まるのが10時(夜です)というのも珍しくなく、
残業、という概念がありませんでした。
朝10時から仕事をはじめて、終わるのが3時か4時(朝)と
いうのが通常業務で、事務所にはいつも泊まれるように
寝袋が常備されていました。


なんで、こんなに時間がかかるのか?
いつもそう思っていたのですが、太陽がある明るいうちは、打ち合わせ
などが多く、プランナー、デザイナーとの打ち合わせが夜になり、
その打ち合わせの後に、さらに飲みながら打ち合わせしたり
コピーを書き直したりするから、遅くなるわけです。

当時の事務所は6階にあったのですが、古いビルのために
エレベーターの速度が遅かったんですが、
エレベーターに乗った時は、
束の間の「睡眠」を貪ったものでした。

僕は個人事務所からキャリアをスタートさせたのですが
個人事務所だから遅くまで仕事していたわけでなく、
広告代理店も同様でした。

12時すぎ(夜)にちょっとわからないことがあって
広告代理店に電話をすると、落ち着いた普通の声で「はい、XXXXです」と
電話に出てくれます。
そして担当の方もだいたい席にいて、普通に受け答えしてくれました。

夜中に働くことは、普通のことだったからですね。

こんな事情のせいでしょうか、マスコミ業界の新卒の面接では
「体力、大丈夫ですか」と必ず聞かれたものでした。


2 仕事がきついとは、思わなかった。

こんな働き方をしていましたが、
仕事をやめたい、とか、きついとかは、あまり思いませんでした。

とにかく、毎日が楽しくてしかたがない。
コピーを書くこと、企画を考えることは仕事ではあるのですが
それそのものが楽しかったので、早く帰りたいとか、休みたいとか、
あまり思わなかったのですね。

僕に限らず、当時の人たちは、みんな、そんな感じだった
ように思います。

日曜日にも打ち合わせがあったりして仕事を
するのですが、少し遅めにお昼頃に事務所にいくと
社長がうれしそうに、「お、来たか」なんていいながら
迎えてくれます。

事務所は青山通りからちょっと入った住宅街にあったため、デートや買い物で遊んでいる人ばかりがまわりにいましたが、あまり羨ましいとも思いませんでした。

自分の方が、面白いことしている、とすら思っていたのかもしれません。

今から思えば、当時はそれだけ面白い仕事に恵まれて
いたからかもしれません。

ここ数年になって「働き方改革」が言われ出し、
クリエイティブの関係者からは「違和感がある」という発言が
頻出しましたが、それはこんな「働き方」をしていた人からしたら
到底信じられないことだったからではないか、と思います。


3 「働き方」は、誰かに決めてもらうのでなく、自分で決める。

クリエイティブの仕事は、誰かに決められたことを
行う仕事ではありません。

仕事としてのアウトラインは、もちろんあります。
課題があり、締め切りがあり、諸条件がある。

しかし、その答えは、クリエイターが個人個人で
見つけていくものです。
正解はひとつでなく、無限にあり、クリエイターによって、通常では考えられないようなキャンペーンが実現し、社会がそれで動いていく、というダイナミズムがあります。

選択する権利が自分にある、というのは
クリエイティブの仕事にとって大事なことです。

評価されるべきものは、成果物でありその過程ではありません。クリエイティブには、努力賞という考え方はあり得ません。

いい仕事さえできれば、5分で仕事を終わらせてもいい。
いい仕事をしたくて毎日徹夜してもいい。

評価軸はいつだって「いい仕事」しかなかったわけです。


4 今は、もちろん、早く帰れます。

昔話を少ししすぎましたが、現在は、クリエイティブ であっても
ハードな生活が待っている、わけではありません。

仕事量を適正に管理し、スケジュールもはるかに
わかりやすく管理できるようになりました。夜の10時からの打ち合わせがあると聞くと、今は僕でも「違和感」を持ちます。むしろ「懐かしい」感じすらします。

すべての会社の現状を知っているわけではありませんが
このように「働き方」が変化した背景には、クリエイティブをめぐる価値観の変化があるように思います。

仕事の種類が変わり、正解が無限にあるような
フリーダムのある仕事が減りました。個人の主観的な思いよりも、オンラインのクリエイティブテストで勝ち残る表現が「優れている」と評価されるようになりました。

予算、納期にも厳格化が求められますので
クオリティを追求することにも限界が生まれます。

クリエイティブの評価は、アイディアやクオリティである
ことは変わっていないと思いますが、
表現(クラフト)の完成度をどこまでも求める、という価値観は
かなり少なくなったのではないでしょうか。効率化、という新たな指標が、仕事の性質を大きく変えていったように思います。


今日は、少しとりとめのない話になってしまいました。

大学に限らず、さまざまなところで、クリエイティブの仕事の
仕方について話をさせていただくことが多いのですが
じつはノウハウだけでなく、こうした「精神論」に近い話が
意外と喜んでいただけることもあり、ちょっと書いてみました。

文中の事例は、あくまでも僕の個人的な見解、体験による
ものですから、参考程度にされてくださいね。


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