仕切り直し樗堂一茶両吟/藪越やの巻
十
夕がすみ煩ふ人を思ひそめ 樗堂
乳守の神の梅むすぶ月 一茶
初ウ四句、月の座をひきあげ旧趾の恋を詠んでいました。
〇
乳守の神 乳の出を願う女人の信仰は各地にみられますが、この歌仙では泉州堺の乳守宮の事跡を句にしていたのです。
梅むすぶ 梅の香、結ぶの語は「結願が叶う」掛詞。
月 初春の月もよし。
〇
ゆふがすみ
わづらふひとを おもひそめ
ちもりのかみの
うめむすぶ
つき
『和泉名所図会』の南宗寺表門の絵に「ちち社」が描かれ、その横に「けいせいの町」がありました。「やがて衣の袖をひかれ」と世にいう「堺乳守傾城廓」が開かれていたのです。
〇
乳守の傾城は、古くより諸芸にも通じ一目置かれた遊郭のひとつでした。
元は住吉領とも伝えられ、住吉大社の田植祭りには乳守の女性が「植女」や「御稔女」・「神田代舞」などの芸能に携わっていたのです。そんなところから、乳守廓の暖簾の房は紫、田植祭りに奉仕する巫女には紫の髪結びが使われていました。遊郭が無くなった今では、舞踊西川流の人々によってその遺制が守られているようです。
すみよし御田の祭り見て歌を詠む
植女来て乳もりそだてる若田や青田の色をみつゝおの神 班竹
〇
余談ながら、臨江庵(臨江寺)は「萩の寺」と呼ばれ「乳守之旧趾碑」があり、曽我兄弟由来の「虎ご石」、武野紹鷗の墓碑、芭蕉の「口切にさかいの庭ぞ美しき」の句碑などがありました。
27.8.2023.Masafumi.
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