小説「青い草萌え出でた人」
人に痛め付けられて捨てられたペットみたいだった
と夫に言われた。しかし、それは、全くもって私が貴方に考えていたことで。人から痛め付けられた動物は、感情を殺すことは出来ても二度と人を信用しない、重ねて夫が言ったのだが、だから貴方はひとりなのね、と思って、思ったけど私は言わなかった。
人の命の、魂の、人格の汚さというものを私は夫の家族から学んだ。
でも、別に、悪党な訳じゃない。あこぎな訳じゃない、卑劣な訳じゃない。だからこそ手に終えない。
含むところのない、見るべきところのない、為し遂げる意志を持たない、惰性の、怠慢の、流されて行くだけの人々の、姿。私は唖然とした。こんな環境で育ったのかと唖然とした。
人は草から派生したのだそうだ。青い草がところ構わず生えていて、その中からたまたま意志を持ったのが今の人の原初。
が、
中には土から派生した人も居て、それは青草人より、かなり、少し、いやだいぶ、異なる。土から、泥から派生したら、語ることも泥なのだ。
夫はそんな家族の中に居て、青しく、清らかだった。そして、ひどく痛め付けられていた。清装としたひとの悲しさは、汚されても汚されてもなお気高く光果たすこと。痛め付けられた動物の目。水烽火みたいな目をした夫は、生きている。