174 暗闇の中のペインティング・アート。
感染者が出始める。
新学期が始まって、約半数のアメリカ人学生がキャンパスに戻ってくると、それまで1人も感染者のいなかった大学に、感染が広がり始めました。
感染した学生は、寮の部屋に完全な隔離。
そうすると、食事をどうするかなどという問題が出てきて、娘も交代で食事を届けようなどと友達同士で提案したり議論したりしていたようです。
そもそもリモート授業のみで、学生同士の接触は原則禁止。
毎日1人で過ごさなきゃいけないのは寂しいし、とてもフラストレーションの溜まる状況だったようでした。
日本で狭い家の中で息苦しい生活を強いられるよりは、自然豊かな広大なキャンパスで過ごせるだけよかったのですが。
誰とも知り合えない。
留学生に限らずアメリカ人学生も、新入生たちは家からのリモート授業なので、お互いに知り合うということができません。
通常は1年生同士仲良くなって、楽しいキャンパスライフを送れるところが、1人も友達ができない。
一緒に授業を受けているのがどんな子なのかも、深く知ることはできない。
これはもう、世界中の学校でそうでしたよね。
娘は1年生の途中までで仲良くなり始めてた友達がいるだけ、まだよかったかもしれません。
そんな孤独な日々の中、小さなハプニングがありました。
寮全体が突然の停電に。
娘が住んでいた寮には、女の子が数人住んでいるだけだったのですが、ある時、寮全体が停電になってしまったそうなんです。
ただでさえ、築100年ぐらいかと思うような古い寮の建物、夜完全に真っ暗な状態に。
どうしようかと心細くなっていた時、隣の部屋の女の子が、
「キャンドルがあるから、私の部屋に来ない?」
と誘ってくれたそうです。
そこでもう1人、別の部屋の女の子と3人で、その子の部屋で過ごすことに。
同じ寮で隣同士に住んでいても、それまで話すことはできなかったので、その時初めて話したら、その子は美術専攻だそうでした。
部屋の中にいろんな画材や紙を持っていて、
「これでペインティングをしよう。」
ということに。
キャンドルの光の中、3人が思い思いに絵を描いて。
大学にいながら他の学生とほとんど交流できず、各部屋で孤独に暮らしていた日々。
暗闇の中だけど、ほんの1日でも他の子と楽しい時間を過ごせた。
「ずっと毎日1人で寂しかったから、ただ絵を描いてるだけだったんだけど、すごく楽しかったんだよ。
あの時のことは、なんか今でも忘れられない。」
と最近、娘が言っていました。