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わかれを越えて
わかれは告げなかった
粗鉄色の空のしたで
都市の歩道橋で
アパートの狭い通路で
まるで挨拶のように
わかれはかわされていたから
荒野の電話ボックスは
風に吹かれて思慮深げだ
電話番号と悲劇の関係は?
糸電話による世界通信の方法は?
電話を何回鳴らせば約束は果たされるのか?
大切な言葉はいつも遅れたので
ぼくらは思い出を
未来に保留していた
それにしてもよくいったものだ
〈ぼくらは〉と・・・・・・
オフィスで演じられる
背中合わせの抱擁
化学工場で合成される
塩素や硫化水素のにおいのする微笑
ぼくらが遅れてばかりいるにしても
時間はせっかちな
教師の貌をしないでくれ
風は海の方位から
湿っぽい悔恨を運ぶな
(詩集『夕陽と少年と樹木の挿話』第4章「夏を採集する」より)