アはアンドロイドのア
朝 目が覚めると
僕は64歳になっていた
ゆうべ寝る前は17歳だった
スマホの画面で自分の顔を見たら
きのうと同じ高校2年の僕だった
でも 分かるんだ
僕は64歳だ
体は17歳でも64年分の想い出がある
『ゼルダの伝説』だって知ってるし
仏壇では父と母が
フォトフレームの中で微笑んでいる
僕はよく憶えている
父が死んだ日と
母が死んだ日のことを
きのうは君に逢い損ねた
今日こそ君に逢わなければ
僕はひとりの朝食を済ませて
(言ってなかったけど 僕には兄弟がいない)
高校の制服に着替えて家を出た
毎朝僕を見送ってくれたサムはいなかった
毎日そうしてきたように
僕は阪急電車の駅を降りて
高校に向かった
途中で道に迷ってしまって
高校の正門が見えだした頃には
もう正午をだいぶ過ぎていた
オクラホマミキサーの音楽が聞こえてきた
そうだ 今日は
月1回の全校フォークダンスの日だった
君とペアを組んで
フォークダンスを踊るんだ
そのために
きのうは散髪までしたのだから
校庭ではもうみんな輪になって
オクラホマミキサーを踊っていた
僕は輪の中に飛び込んだ
君を捜した
うっかりしていた
僕は64歳の君を知らない
だって今日初めて64歳になったのだから
輪はグルグル回る
誰かが僕に近付いて来て
僕の方に手を差しのべた
あなたは誰? 見かけない顔だけど
君なのか?
あなたは誰?
また聞かれた
聞き覚えのある声だ
ヒラメちゃんかい?
一緒に踊る?
女子がみんなヒラメちゃんに見えてきた
どれが64歳の君なのか分からない
フォークダンスの輪が回り続けている
タタッタランラン タタッタラ
タタッタランラン タタッタラ
君は誰?
あなたは誰?
タタッタランラン タタッタラ
タタッタランラン タタッタラ
駅を出た後で道に迷ってから
おかしくなった
高校の正門脇には
古い大きなヒマラヤスギが立っていたのに
今日はメタセコイアだ
みんな成りすましなのか
一緒に踊る?
ヒラメちゃん成りすましが
手を差しのべてきた
なぜか
フォークダンスの時は
掌に汗をかく
それだけは今も変わらない