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朝は海
電気冷蔵庫は朝の祭壇
地平線が冷凍室で眠っている
NHKの『明るい農村』をみながら
氷をかじると
潮の味がした
と
地平線から水が溢れだし
3DKは海になった
冷凍したはずの神話が解凍し
引用符で飾られた履歴を喋りはじめる
ぼくが聞きたいのは
太陽と
風と
水と
樹木
からなる ちいさな国の来歴
いつから
ヒトは水に溺れるようになったのか
進化の水路を5億年遡れば
誇り高い銀鱗を身に纏い
オルドビス紀の海洋を遊泳する
ぼくらの祖先に遇える
祭壇に水を供えるのは
すぐれた遊泳者として
オウム貝たちと交信した頃を
魂が憶えているから?
体をやや傾けて
ぼくは3DKの海を渡った
扉の外は硝煙たちこめる荒野
体の中心あたりで太古の海が拡がる
(詩集『夕陽と少年と樹木の挿話』第5章「秋の瞳」より)