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ここに地終わり海始まる
喜望峰
南緯34度21分25秒
東経18度28分26秒
アフリカ大陸の最南西端
漬物石のような石に埋まる波打ち際
打ち上げられた海藻を拾ってみる
風に帽子が吹き飛ばされそうになる
![](https://assets.st-note.com/img/1661825127532-SM2Q6NwrNS.jpg?width=1200)
ロカ岬
北緯38度47分
西経9度30分
標高140メートル
ユーラシア大陸の西の果て
海と空がつながる領域で
空気の層が青白く光っていた
![](https://assets.st-note.com/img/1661825229996-OW4kaW4P9Z.jpg?width=1200)
ハバナ
仙台まで11,850キロメートル
ローマまで8,700キロメートル
銅像になった支倉常長が
右手の扇子で指し示している方角は
仙台ではなくローマ
ここは旅の途上
![](https://assets.st-note.com/img/1661825399817-0GaCozLBwb.jpg?width=1200)
喜望峰で夜が明け
ロカ岬で夜が明け
ハバナで夜が明け
東京で夕食が始まる
東京に赴任した途端
肩を骨折した息子を
神戸に住む父がひとりで見舞い
半島の頂上に建つ展望台から
喜望峰を見下ろす灯台は
深い霧に隠れ
ロカ岬の多肉植物が茂るあたりでは
少女がふたり額を寄せあって
携帯を見るふりをし
ハバナの海岸通りでは
チャチャチャのリズムが
1日中鳴っている
![](https://assets.st-note.com/img/1661825619691-tdQ9EacT9C.jpg?width=1200)
アフリカ大陸の最南端へは
喜望峰からさらに
200キロメートルほど南東にある
アグラス岬まで行かねばならない
人類が方位を知った時から
風は休むことなく
波の上を吹き続けている
すべての日没とすべての夜明けの間を
深夜特急が
走り抜けて行く
誰に気付かれることもなく
立ち去ることが
できないかのように
![](https://assets.st-note.com/img/1661825732653-sAF8UT76at.jpg?width=1200)
(註)この詩の題名に使った「ここに地終わり海始まる」という言葉は、ポルトガルの詩人ルイス・デ・カモンイスの詩『ウズ・ルジアダス』の一節に書かれていると言われている。私はまだその詩を読んだことはない。
(詩集『フンボルトペンギンの決意』第1章「旅程」より)