日曜日は丘にのぼった
須磨の海
のみえる丘陵に
タケシを抱いてのぼった
食べてしまいそうな雲のうえで
午後が憩っていた
稜線に沿っては
十字架のかわりに
建売住宅の集落があった
〈産めよ 増えよ 地に満ちよ〉
箱舟から降りたノアの子
セム ハム ヤペテ よ
そのとき神は他にはなにかいわれなかったのでしょうか
十ヶ月に足りないタケシは
青い葉をにぎりしめあくびする
白い帆影が時間のふちをすべり
海はタケシの瞳で凪いでいる
南方からきこえる
海の音階 魚たちの通信
波間に光たばしる沖合あたり
私は幻想のブイを浮かべる
潮風がいきなり心に触れた
タケシは汗ばみいやいやをする
もう降りてゆくよ
夕暮れまでにお前の眼はきっと
大洪水を起こすだろう
さみしさは地球大だ
いまのうちに泣いておくといい
神様が驚いて
日曜日を返上して天地創造をやり直すほど
大きな声で
(詩集『夕陽と少年と樹木の挿話』第4章「夏を採集する」より)