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海へ

涙が涸れ果てた末に
砂浜に辿り着いた旅人が
生まれて初めて
波打ち際で立ち尽くすまで
塩の水は
うみと呼ばれるのを
待たねばならなかった

うみは列島を沈黙で取り囲み
水平線で空と交わり
命を産み続け
満潮と干潮を
規則正しく繰り返し
砂浜を作り続けた

ぼくが初めて海に入ったのは
高知の須崎海水浴場だった
海の水が目に染みて痛くてたまらず
溺れそうになった

ぼくの体のなかにも海がある
渇くこともある海だ
眼のふち
不意に波打ち際になる海だ
ひとりで泳ごうとすると
君に叱られる海だ
レイを首にかけたプレスリーが
カヌーを漕いでいそうな海だ
ときどき深さが変って
ぼくをじたばたさせる海だ

そろそろ
新しい名前が必要な海だ
君の涙の中に閉じ込めたい海だ
泳ぎたい
その海の中で
ゴーグルも付けずに


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