見出し画像

二月

二月だった
雨が降っていた
冷たかった
雪を待つ雪柳の枝々は
水晶の果肉をした雨粒を
いっぱいつけていた
一粒一粒に 白い冬の空が
入っていた

壊滅的だったなあ
物心ついてからというものは
ずいぶんと大切なものをフイにした
雨粒でこしらえた鈴を 空いっぱいに鳴らせたら
どんなにうれしいか

眼を閉じると
黒い背景に小さな豆電球が
紐にいっぱいぶらさがって
赤く光っているのがみえる

いやだ いやだ
眼を開けると
お前の残していった 丸い手鏡がみえる
いまは オレの顔しか映らない
でも お前のまなざしを感じる
かっては お前の眼がこの鏡に映っていたのだから

奏でるべきどんな楽器ももう 持ってはいない
オレの音階は滅茶苦茶だったから
みんな 耳をふさいで口をきいてくれなかったから
それでも
雨をふるい落とした雲に
銀粉をまぶしてやっている陽の光で
フルートをつくれたら
どんなふうに吹けばよいものか
と 考えてしまうオレを
お前はどう思うだろうか
もし 楽譜もなしに
まだ聞いたこともない音がしたら
どこかでお前は
美しいと いってくれるか

 (詩集『夕陽と少年と樹木の挿話』第2章「冬の告知」より)


いいなと思ったら応援しよう!