オイディプスとアンジェラ ⅩⅣ
港と市場の間にある狭い路地裏をアンジェラはオイディプスの手を引きながら歩いていた
アンジェラのモノローグ
さて Yakamotiはディプの申し出を受け入れてくれるかな・・・彼はまだ40代と聞き及んだが髪は白髪で老翁の風貌を晒している・・・そのように身をほどこして世間を煙に巻いているのかもしれない それにしても彼の眼は柔和でありながらとても鋭い 一筋縄ではいかないような気がする だがディプもほんとうに変わられた 先程の舞はとても凄まじかった 盲いたまま別の生き方を真剣に考えておられる
私も下僕としての関係で閉じてはいけない 変わらなければならない
一座の天幕が視えた アンジェラは入り口で「アンジェラです お連れしました」
その声に天幕が裂かれて一座の者が「よくお出で」と応えて案内された
天幕の奥にYakamotiは胡座を組んで微笑んでいた 彼の前には何かの草で編んだ座布が2枚置かれていて二人はそこに座った
Yakam よく来られた いつぞやは王宮にお招き頂きありがとうござい
ました
ディプ おぉ 懐かしい声だ 視ての通り今は只の盲いた放浪者じゃ
Yakam だが お元気そうではありませんか
ディプ う~む そう視えるならなによりじゃが・・・
Yakam さて お話は連れの者のアンジェラよりお聞きしております
が・・・
ディプ もう王として居られなくなり 出離のこゝろが兆した時 迷わず
我が目を裂いた 後悔はしておらぬがこの身でもって生きて行く
には旅芸人の在り方がほどよいものと浮かんで お主のことを
思い出しここまで来た
Yakam さりながら 急に身を寄せられても迷惑千万 この一座を旅か
ら旅へと移りゆき生活するのは想像以上に大変で とてもあな
た様には無理と存じる
ディプ そうか・・・そうであろうなぁ・・・さてさて・・・
Yakam あなた様には・・・
ディプは声を遮りディプと呼んでくれと静かに言った
Yakam では ディプよ だが一度は受けた恩を返しておきたい
お主は舞を舞うとか しかしながら私達の演舞は時折 あなたの ような王の要請で宮廷で演じ 多くの金子を得ることがあるの
はほんの稀事 普段は市場で所場代を払い投げ銭だけで稼がな
ければならない つまりお主にはそれが出来ると考えているの
か・・・
ディプ(語気強く)わからぬ だから貴殿に儂の舞を視て判断して貰い
たい
Yakam ・・・・・・わかった ではこうしよう 明日我が一座の演目
は弐部構成で一部と二部との間に10分程の舞台替えで幕を引
く その10分をお主に預けよう つまりそこで舞を踊り 観
客の反応がよくたとえわずかでも投げ銭があるようなら考えて
もみよう だがそうでなければ申し訳ないが諦めてほしい
どうじゃな
ディプ もとより 私や私達の演舞を視て判断を仰ぎたいと思っていた
一度機会を頂ければ十分である
Yakam 宜しい では細かな打ち合わせはアンジェラと舞台を取り仕切
るエレナとで詰めることにして ディプよ少し別の話をしたい
が・・・どうじゃ
ディプ ありがたい 私もお話がしたいです
Yakam では 波の音を聴きながら話すとしよう 少し歩こうか
Yakamotiはディプの手を取り海辺へと歩き出した
ⅩⅤに続く
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