オイディプスとアンジェラ ⅩⅧ
そして すぐに二部の芝居が始まった
二部は KAGURA一座のYakamoti書き下ろしの芝居で「鍛冶屋の娘」という恋物語の演目であった
登場人物:ピュロス(鍛冶屋)
クレア(娘)
デメトリオス(青年)
ポリュクセネ(母)
コロス舞踊合唱隊(村人)
あらすじは・・・
三代も続く鍛冶屋のピュロスは、アテネからは少し離れた小さな村で鍛冶屋を営んでいた 彼は一人娘のクレアを溺愛していた
クレアは頑固一徹で融通のきかない父ながらも父を尊敬し愛していた 又彼女は美しく多くの男性から求婚されていたが父は誰も受け入れなかった 父は娘にふさわしい相手は自分と同じ位の力量と技術を持つ鍛冶屋だけだと考えていたからだ・・・
ある日 村にデメトリオスという青年がやってきた 彼はアテネの名門の家の出で美術や自然科学に造詣が深かった 彼は村の風景を描くためにしばらく滞在することにした 青年は、或日川縁でクレアをみとめて一目惚れし 彼女に近づこうとした
クレアも青年に惹かれていく しかし 父はデメトリオスを嫌った 何故なら青年をただのお坊ちゃんだとしか思えなかったからだ
青年は、父にクレアとの結婚を願い出ると 父は青年に自分の鍛冶場に来て自分と勝負するように言った 青年は娘のために挑戦を受けることにしたが・・・もとより叶うはずもなく敗れてしまった 父は青年を追い払い拒絶した 娘にも二度と会わないようにと言いつけた
母のポリュクセネは傷心の娘にこの恋を応援するから 青年の後を追ってアテネに行くように勧めた。娘は母に感謝し 言葉に従って父の留守中に家を抜け出し青年を探しに行った
やっとのことでクレアはアテネでデメトリオスと再会する。青年は大変喜び自分の家に連れて行き両親に紹介した 家に着くと驚いたことに 青年は王宮かと見間違うほどの大きな家に住んでいた
青年はアテネでも屈指の貴族だった 青年は娘に改めて結婚を申し込むが・・・娘クレアは青年の申し込みを嬉しく想いながらも承諾には躊躇した やはり父を捨てていけないという想いが勝ち 断りを入れて父の元に帰ることを決意すると 青年も家を捨ててクレアの父に弟子入りをすると決意し二人で父の元へと急ぐ
帰郷した娘と青年の想いを聞いて父は 二人のほんとうの優しさと気持ちに気づいて クレアがデメトリオスと結ばれるように段取りをする 二人はみんなに祝福されて結婚した コロスは二人の愛と親子の愛を讃えて劇は終わった
座員全員が舞台に上がり 中央にYakamotiが登場して万雷の拍手を頂き 又投げ銭も数多く投げ込まれた
オイディプスは娘の葛藤・青年の葛藤・父の葛藤はいずれも自身の幸せより他者の幸せを大切にしなければならないという気づきが主題としてあるが・・・芝居の構造としてはそれをさりげなく演出し どこまでも一つの人情喜劇としての枠組みで観た者が微笑ましく思うように構成されていた処が彼のすごさかも知れないと感じた
アンジェラは芝居らしい芝居を初めて観て その面白さに引き込まれ勉強したいと感じた
カリスは それぞれの葛藤が歌でコロスと交えて歌い上げるシーンにとても魅入られた
三人は改めてそれぞれにKAGURA一座の実力に感嘆し沈黙を強いられた
暫くしてYakamotiが舞台から捌けて三人の元に寄って来た
Yakam では話をするか こちらへどうぞ・・・
(と楽屋の奥に案内した)
Yakam どうであった 観客いや衆客の前で演舞するのはまた違ってお
ったであろう
ディプ はい 最初は身震いするほどの視線の圧を感じましたが 次第
にそれが心地よい刺激となってそのことを忘れて没入出来まし
た
Yakam 正直 短期間であそこまでの舞を視せられるとは驚きであった
悪くはない
ディプ ありがとうございます
Yakam しかしながら それを認めた客は豪商か貴族が僅かで 投げ銭
も数える迄もなかった・・・何故だかわかるか?
ディプ ・・・・・・多分に 多くの客が求めているものと齟齬があっ
たと存じます
Yakam う~む その通りじゃな もっと言わせて頂ければお主の舞は
盲しいたと言え その舞う躰・カタチは綺麗そのものだ・・・
だがもう少し生活の匂いがしないと偽物に視える もっともっと
言わせて頂ければ 所詮は王の目線の王の舞 共感が出来にく
い 要のことはその場所で如何に受けるかどうかがすべてだ
聴衆の反応を感じながら演じ 違和感を感じれば軌道修正を図
り 受けるポイントに的を絞り演じなければならぬ
このカタチ それ自体は悪くないが・・・このままでは此処では
難しい・・・色々と思案を重ねたが・・・申し訳ないがお主を
迎入れることは難しい・・・
ディプ ・・・・・・何と言えば・・・・・・どうにもなりませぬか?
瞑目するYakamoti・・・沈黙の刻が流れる
Yakam ・・・・・・わかった お主と二人だけで話そう 二人は悪い
がエレナの 処で待って頂きたい
アンジェラとカリスは礼をしてその場を離れた
ⅩⅨに続く