同時刻 Ⅱ 朝
▽同時刻:早起きが好きな森みどりは、明治神宮の近くの代々木に住ん
でいて、日の出の開門に間に合うように家を出る。
この季節の緑の森を歩いていると・・・自分が祝福されてい
るように感じて微笑みを絶やさず歩き続けている。
▼同時刻:米寿の住本兼一は「鶴亀・鶴亀」と空読みしているように唱
えながら、火ばさみと箒を持って、近所の周辺を雨の日以外
は毎日掃除するが・・・今日は道路の路肩に座り込み、カラ
スたちと睨めっこをする。
▽同時刻:バーテンダーの吉本一二三は、明け方家にたどり着き、長い
シャワーを浴びて、倒れるように眠り込み・・・夢の中で新
しいカクテルのレシピーが出来ると、それを飲み干し「う~
ん未だ未だ・未だ未だ・・・」と溜息をつく。
▼同時刻:朝礼の司会役を務めている常磐恒子は、うっかりボヤを出し
てしまった為に家族に騙されるようにして「グループホー
ム」に入れられた。しかし恒子は自分は他の入居者の面倒を
見るために連れて来られたのだと信じて疑わない。
▽同時刻:「一致と不一致」という自身の心の難問を解き明かそうと、
休日の朝から小さな缶ビールをチビチビ飲みながら、空想に
耽る塾講師の松本忠は、こわごわに結論を出した。
「Reset!」早、放浪の旅空を夢視て歓喜する。
▼同時刻:<翳りの無い日向ではつまらない、翳りが点在し、その翳り
を陽が被って目くらましをしている>という一つの視点に行
き当たった翁の長谷川敏夫は歌を詠む。
フェイドイン・フェイドアウト生きるとはただそれだけだと何故言えぬ
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