見出し画像

オイディプスとアンジェラ ⅩⅤ

 海辺に着くと年に一度だけ視られる大月夜が近づいているのか月はいつもより大きな光で照らし出していた もとよりオイディプスには視えない筈だが 光量の差は感じ取る事が出来るのか・・・暫し月の方を視て頷いていた
Yakamotiはその様子から完全な闇の世界にいるわけではないと感じた

Yakam  少しは光を感じるのか?
ディプ はい ほんとうに微かな薄明ですが・・・感じています
Yakam  そうか・・・完全な闇の世界であればこのような流れにはなら
    なかったか?
ディプ さぁ どうでしょう アンジェラの御陰でもあり又光と闇の
    あわいを生きろという天のメッセージかとも思っております
    が・・・
Yakam  隠棲することは考え無かったか?
ディプ 一人ならばそうしたかも知れませんが・・・アンジェラがいる
    しかも私は盲目に慣れておらぬ故 ほんとうに俗世に身を置く
    ことを知ってからでも遅くはないと想ってのこともあります
Yakam  なるほど 儂は遠い遠い東の国で武官で防人じゃった 
    或日 南の島の偵察に行ったのだが その道すがら島の火山が
    噴火して大波に襲われて漂流してしまった 
    さてどれ程の日が経ったか・・・気がつくと見知らぬ大陸に流
    されていた それからの話は長くなるので割愛だが 様々な縁と
    出会いがあって一座をもつことになった・・・今では家族も含
    めると30人を超える 只々感謝じゃ
ディプ それは貴殿の人柄 もって生まれたものが華開いたのでしょう
Yakam  う言って頂くと嬉しい限りじゃが・・・
ディプ 何か問題でも?
Yakam  う~む あると言えばある 無いと言えば無い
ディプ 一座が重荷に? ほんとうは貴殿が放浪したいとか・・・
Yakam  はっははは・・・お主は面白いお人じゃ・・・はっはは
    は・・・

暫くの間 二人は口を噤んだ 打ち寄せる波の音だけが響いてくる 勿論潮の香りや海鳥の囀りも聞こえて来るが静寂であった 二人は思い思いに<今>をどう生きるべきかを考えていた

Yakam  さて 打ち合わせも終えた事だろう 帰るとするか
ディプ はい 帰りましょう 
Yakam  お主 泊まっていくか?
ディプ いいえ 大丈夫です 其程遠くでもありませんし お心遣いあ
    りがとうございます
Yakam  そうか もう少し話したい気もあるが・・・明日のお主の舞に
    委ねよう
ディプ    あぁ はい 私は何時頃からの出番となりますか?
Yakam   今は夏場で陽が暮れるのが遅い 一部は夕刻の6時過ぎ頃か
     ら始め二部は丁度日が暮れる間近で松明などでかがり火を置
     く・・・謂わば丁度光から闇へと移ろうその時間にお主が舞
     う・・・お主の思いとも重なると良いがな・・・
ディプ  重ね重ねのお気遣いありがとうございます 悔いなく舞う 
    それだけです
Yakam  そうじゃなぁ それが一番じゃ

一座の塒に戻るとアンジェラとエレナが親しげに話していた 二人を視てアンジェラが笑顔を向けて

ア ン お帰りなさい 打ち合わせは終わりました 後は・・・ 
Yakam  ご苦労 ディプ殿はお帰りになる 明日の夕刻 第一部が始ま
    る前にまた此処へ来て頂ければよろしい
ディプ  エレナ殿にはお手間をとらせました 明日よろしくお願いいた
    します 
ディプ ではアン帰ろう
エレナ お待ちください 
   (とオイディプスに微笑みながら駆け寄り正面に立つ)
Yakam どうしたエレナ
エレナ はい 私は舞台の演出も少し手伝わせて頂いております 
    舞踊るあなた様には仮面が必要とお考えだと・・・
ディプ その通り考えてはおるが・・・
エレナ 私に良い考えがあります 是非そのカタチで舞踊られる様お勧
    めします
ディプ ・・・・・・わかった エレナ殿にお任せする・・・
エレナ ありがとうございます ではお顔の採寸をさせてください
ディプ いいとも さぁ どうぞ
エレナ はい 失礼致します 
  (白布を持ち ディプの顔に被せるようにして素早く面取をする)
エレナ はい 終わりました 明日までには必ず仕上げておきます
ディプ 親子共々・・・
   (後の言葉に詰まるオイディプス・深々と頭を下げ)
    ほんとうにありがとうございます
    (アンジェラはオイディプスの手を握り)
ア ン ようございました では 帰りましょう 
Yakam・エレナ 気をつけてな お気をつけて!

二人は再度礼をして振り返りカリスの小屋を目指して歩き始めた

アンジェラのモノローグ
いよいよ明日 ディプの運命が決まるYakamotiが是非を判断するものばかりと思っていたが観客に委ねられた・・・賢明な判断か? 人を裁断することは難しい 老熟の智恵 だが 仮に迎えられたしても そう簡単ではないような気がする 
アンティゴネ様を頼っていけば・・・いやいや私がアンティゴネ様の代わりをしているのだ・・・よくよく考えてみれば不条理な神の計らいをオイディプスは<異>を申し立てているのだ
明日 神は間違いに気づくだろう オイディプスは何一つとして悪くはないのだから   

カリスが小屋の前で心配そうに立っていた 二人を認めて笑顔になり駆け寄った二人の表情が明るかったので良かったんだと安堵した 夜空は澄み切り月と星々がそれぞれの煌めきを競い合っているような明るい夜だった
                           ⅩⅥに続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?