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《Vol.7》知らずに入った南仏「人生初ミシュランのおもてなし体験」: CXの基本

こんにちは、Izumi Insights のいづみです。
これまでの記事は今までの仕事を通して経験したことや得た教訓にフォーカスした内容でしたが、今回はうってかわって、一生忘れない「人生初めてのミシュランレストラン」での「おもてなし体験」のお話。


南仏での女一人旅

40代後半にもなると「ミシュラン⭐付きのレストラン」に行ったことある人もたくさんいると思いますが、「初めての経験」ってやっぱり強烈に覚えてる方も多いのでは?

もちろん、今でも「自分へのご褒美」として旅行先などでめっちゃがんばって調べ尽くして、めいっぱいのおしゃれもしての「ビックイベント」としての扱いですが、わたしの「初ミシュラン」は全く想定外のタイミングで突然おとずれたんです。

それはまだ30過ぎの頃で「ミシュランガイド」というものの存在自体は知っていたけど、自分には遠い世界過ぎて興味もなかったころのお話。

大学時代からの親友がフランス人と結婚することになって、南仏プロヴァンス地方での結婚式に招待されたんです♪

それまでフランスには2度ほど旅行したことはありましたが、南仏は初めて。本来ならその親友とどっぷり一緒に旅行したかったのですが、さすがに花嫁は両家のファミリー対応に多忙だったので、結婚式の数日前から南仏入りして女一人旅を楽しむことに。

お買い物が繋げてくれた初めての空間

南仏プロヴァンスといえばAix-en-Provence(エクス=アン=プロヴァンス)!

結婚式もそこから車で30分くらいの郊外ということで、「エクス」に数日滞在することに。

エクス入りして初日はホテルのそばで適当に食べ、翌日は買い物三昧のあとだったこともあって、スーパーでワインとおつまみを買ってホテルの部屋で一人でまったりと。

そして、エクスでの最終日(結婚式の前日)も朝から市内散策とショッピングを楽しんでいたところ、お腹が空いたので遅めのランチをと思って、その時たまたまお買い上げした洋服ショップの女性店主に「近所でランチ美味しいとこ教えて~」って聞いたんです。

当時はGoogleマップもなかった時代。お店の方の口頭での道案内は「そこの道を15分くらいずっーとまっすぐ歩いて曲がってさらに数分歩くとお庭のあるレストランがあるからオススメよ」みたいなアバウトな指示に加えてレストランの名前も覚えられないようなフランス語。

「行けばわかるか!」と、とくに何もメモらずに移動したんです。

15分どころか延々と市内から離れた郊外に向かい、たぶん30分以上歩いたような記憶が。というのも、中心部を出るとレストランの気配すらない公道が続いてとりあえずひたすら歩くしかなかったから。

もはや最初の方で道を間違えたのかと戻ろうかと思った時、何だか緑が生い茂ってるガーデンらしき場所にたどり着いたんです。

わたし、場違い?

レストランの看板もよくわからなかったので、公園にでも入ったのかなと思い、キレイだしせっかくここまで歩いたから公園だけでも楽しもうとひとまず入ってみたら、50メートルくらい先に大きなお屋敷発見!

お屋敷のお庭にはテーブルもたくさんあって、午後3時くらいだったからか奥の方に座って食事をしているファミリーが一組のみ。しかも私の記憶ではそのファミリーは親子3人揃って真っ白なお洋服を着てて、絵に描いたような素敵な光景。

瞬時に私の頭の中では「わたし、完全に場違いなとこ来ちゃった、店員に気づかれないうちに帰ろう」って思ったんです。。。市内散策の延長で歩いてきたので、「ジーパン、Tシャツ、リュック、歩きやすい決しておしゃれではないサンダル」というなんともミスマッチな格好をしてた私。

しかも、実はそれまでのフランス旅行では、レストランでなんとも悲しい「アジア人差別」の記憶がちょいちょいあったので、そういう気持ちにまたなりたくないと思ったというのもありました(涙)

でも、その一瞬のうちにレストランの方に見つかってしまい、「こいつどこから来たんだ?」という顔つきではなく、とーっても素敵な笑顔で「Hello! 」と声をかけられ、気づいたら素敵なテラス席へ案内されて、帰れなくなってしまった。。。

緊張をほぐしてくれた爽やかなウェイター

席について、「わたし、場違い」と思ってるのが顔に出てたのか、ウェイターの方が私の緊張をほぐすように雑談を。「今日はたくさんお買い物したみたいだね!(買い物バック持ってたので)」とか「旅行で来てるの? どこから来たの?」とか。

その流れで「お腹が空いてるの? それともコーヒーブレイクかな?」とメニューを差し出したあと、「美味しいものいっぱいあるからゆっくり選んでね!」と言って、サーっと遠くの方の私から見えない位置まで姿を消しました。

お店の佇まいからある程度の予想はついていたけど、メニューの金額は30過ぎの私にとっては「自分史上最高級」で、どのお料理も単品50ユーロとかのレベル。

でも、ここはもう「旅の思い出」と腹をくくって、メインディッシュにワイン1杯、そしてデザートとコーヒーを注文することに。

記憶に残ったのはお料理以上のもの

今だから「当たり前か」と思うミシュランレストランではいたって普通の「アミューズ」が3つくらい出てきて、その後にメインディッシュが。

そこでのお料理の味や美しさを語り始めたらキリがありませんが、わたしにとって一生忘れないのは、そのお店の「接客」でした。

今みたいにWi-Fiなど無い時代、携帯も海外ローミングがバカ高い時代だったから、一人ご飯中に携帯で読み物、とかできないので、旅行ガイドブックを見ながら食事していたんです。

そしたら、ウェイターの人が「フランス語だけど、見るだけでもキレイだから雑誌持ってきたよ」って素敵な旅雑誌やファッション雑誌を何冊も。

そして、また見えないところへサーっと消えていく。

ワインも美味しいけど、喉渇いて飲んでたお水が減ってきたなぁと思っていたら、ウェイターを呼ぶ前に気づいたらサッと自動的にお水を足しにだけ来てくれる。

そして、また見えないところへサーっと消えていく。

その後も食事の合間にとってもフレンドリーに話しかけてくれつつも、「個」を尊重してくれる(っていうか姿も見えない)距離感と気楽な雑談を交えた、絶妙なタイミングのサービスと気遣い。

このレストランにとって、私の選んだお料理はフルコースでもなく、一番安価なものばかりだったはずですが、私がいかに心地よく過ごせるかを徹底的に考えてくれた本当に素敵な心遣い。

一人旅には慣れていたので、自分のペースでゆっくり食事をすることは大好きだったけど、まさか一人で2時間くらい雑誌をパラパラめくりながら高級フランス料理屋でカフェで寛ぐのと同じような感覚で「自分時間」を満喫できるとは!

その日の夜、結婚式前夜ということで、結婚する親友とその家族とお食事をしたんです。
そして、私のミラクルなランチのお話をしたら、親友が「えーーー!そこ、一度行ってみたかったミシュランのお店だよ!私より先に行くなんてーーーー(涙)」とそこで初めてミシュランレストランだということを知りました。

「記録」ではなく「記憶」

今なら速攻SNSで写真や動画で大配信していたような美しいお庭とお料理ばかりのレストランでしたが、当時はレストランでガツガツ写真を取る文化ではなかった時代(少なくとも私は)。

だから写真は一枚もないんです。

にもかかわらず、私はこのレストランでの体験を家族や友達、初対面であったばかりの人にまで熱く語れるほど鮮明に記憶に残っています。

CX戦略の基本

こうやって「他の人に自分の体験を熱く語り、見返りを求めずに、推奨する」。

これって、CX (Customer Experience:顧客体験)を考える上での基本でもあり、究極のゴールですよね。

「Customer Satisfaction:顧客満足」という言葉はたくさん聞きますが、お客様が「Satisfied:満足」しただけでは「熱く語れるような記憶」にはなりません。

ゴールは「製品やサービスに満足した上で、さらに想像を越えるような体験」

高級フランス料理屋さんに行って高価なお料理を注文するのだから「美味しくて当たり前」。
でも、それに加えて他のレストランと比較して感じた違いが記憶に残る:

  1. アジア人差別ゼロ→海外に住んでると意図しない小さな差別でも敏感になるので。

  2. 心地よいフレンドリーさ→高級店のプライドや緊張感を感じさせない、物腰が柔らかくてアットホームなスタッフ達。

  3. 視野に入らないため、圧迫感を感じないウェイターの距離感→監視されてる感じがしないながらもきちんと視野が行き届いているというプロ意識を実感。

  4. 一人旅の楽しさを理解してくれていた→「自分時間」をおもいっきり楽しめる一人旅。過度な世間話は迷惑だけど、旅行の話やアドバイスなら喜んで聞きたい!テーマに合った雑誌をチョイスして持ってきてくれた。

これは「レストランでのおもてなし体験」ですが、「おもてなし」とは宿泊業や飲食業以外でも「お客様」がいる限り、「どんなビジネスでも通用すること」ですよね。

  1. 全てのお客様に平等に最高のサービスを提供する。

  2. お客様が心地よく感じる言葉遣いやコミュニケーションを徹底する。

  3. お客様の立場にたって、困っていることがあればいち早く察し、サポートし、解決する。

  4. お客様がそもそもどんな目的でサービスを利用しているのかを理解し、そのお客様に合わせた有益な情報を提供する。

こういう意識を持ったCX戦略を進めれば、お客様にも感謝され、気持ちは伝わり、心の底から喜ばれると思います。

小さな違いでも大きく記憶に残る

そして小さなことでも気持ちは伝わります。お金をつぎ込んで「差別化に投資する」ことが全てではありません。

レストランの「ウェイターの気づき」でスタッフルームに置いてあった雑誌を2時間貸してくれただけ。「お金のかからない気遣い」だけで私みたいに感動してみんなにオススメする人がいるんです。

「おもてなしのココロ」って、そういう小さな気遣いの積み重ねだと本当に思います。

でも、その小さな気遣いこそが人の記憶に残って、ついついお友達にもオススメしたいこと、になるんです。

きっとエクスでお買い物したショップのオーナーも、私と同じようにそのレストランのお料理だけでなく接客サービスにも感動したんだと思います。

もっと近くにたくさん他のレストランが存在する中、わざわざ町の外にあるあのレストランをオススメしてくれたわけですから。

そうやってコアなファンを増やすことを、CX
戦略のみならず経営戦略の評価基準に取り入れている会社がどんどん増えています。

次号はそこをもう少し掘り下げて、「家族や友達にもオススメしたい!」と言ってくれるお客様を増やし続けるCX指標が、いかに中長期的に会社の利益と成長に連動するのかについてご紹介したいと思いますので、ご興味のある方はぜひフォローしてくださいね!


余談ですが、私自身の結婚式で友達に言われたことがきっかけで「おもてなし」についてプライベートでもブログで書いていますので、ご興味ある方はぜひこちらも覗いてみてください🌟

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