仁義なき戦い 蝉死闘編
蝉及び蝉好きの方には申し訳ないが、ぶっちゃけ私は蝉が苦手である。
そのせいで夏は毎年憂鬱である。
苦手な理由は大きく分けて以下3つ。
①でかい。正直この時点でもうダメ。
②小学生の頃、同級生に蝉の抜け殻を肩へくっつけられ、気持ち悪く感じてしまった。ごめん。
③道端に落ちていた蝉の近くを通り過ぎようとした際に突如暴れ出す、通称セミファイナルに驚きすぎる。
というか、道端に落ちているだけならまだしも奴らはアパートやマンションの敷地内でもセミファイナルをキメてくるため、夏場はただ玄関ドアを開け閉めする際にも蝉が部屋に飛び込んでこないよう細心の注意を払わねばならない。
室内をセミファイナルの勢いで暴れられたら本当に手が付けられない。
とはいえ通勤なり買い物なりゴミ出し等の用事があれば当然家から出なければならない。
ゆえに蝉対策が必要である。
インターネットで蝉に対して有効と思われる対策を調べ、実践してみる事にした。
ただ、これは一個人の適当な検索結果なので、あまり真に受けないで頂きたい。
①水をかけてみる
→奴らは羽根が濡れると飛べなくなるためどうも水が苦手らしい。が、マンション敷地内の共用部分で水を撒くのはNGと思われる。
②虫除けスプレーを使う
→最も現実的だが、噴射した途端暴れだしそうなのでNG。
③高層階に引っ越す
→奴らは地上100メートル程なら飛んでこれるらしい。森にお帰り。
④開き直って暴れる蝉を無視する
→それが出来ればこんな悩みは無い。
結論から言うとどうにもならなそうであった。
とりあえず苦肉の策としてポストに投函されていたチラシ類を丸めて投げ、蝉を追い払うというという事で一旦着地した。
まさかチラシ類がこんなところで輝くとは。
ひとまず蝉対策手段を確保し、私は一安心した。
のだが、直後に事件は起きた。
ある日、私は近所のスーパーで買い物を終えて帰宅しようとしていた。マンション入口、階段部分、廊下等に蝉の姿は確認出来ずほっとしていた。
そして玄関ドアの鍵を開けようとしたまさにその時、突如嫌な予感が襲ってきた。
恐る恐る玄関ドアから離れてみる。
そして玄関ドア周辺をよく観察してみると、インターホンの真上の壁にデカい蝉がとまっていた。
何たる事だろうか。
あのまま玄関ドアを開けていたらおそらく蝉が暴れ始めてそのまま家の中に突入してきた可能性もゼロではない。
驚きつつも、持っていたチラシを丸め、とまっている蝉に向けて放り投げる事にした。人が近づいただけであれだけ暴れ回るのだから、本体に当たらずとも驚いて逃げていくはず、と考えた。
一球目。外す。普通に下手だった。
続く二球目。これも外す。クソエイムだと詰む。
で、三球目。今度は蝉本体のかなり近い壁部分に丸めチラシが当たる。
これで蝉は驚いて逃げていくはず、と思ったがどういう訳か当の蝉は微動だにしなかった。
衝撃である。
人間が近づいただけであれだけ暴れ回る癖にモノが近くにぶっ飛んできただけでは反応しないらしい。
これでは蝉本体に丸めチラシをぶつける必要がある。
その後も丸めチラシを何度か放り投げるも、なかなか当たらない。そんな事をやっているうちに他のマンション住人が帰宅してきたら不審者と間違われる可能性大だったが、その日は何故か一切出会わなかった。
夏の暑さで疲労困憊になりながら丸めチラシを蝉に向かって放り投げる。一体私は何をやっているんだろう、と途方に暮れ始めた辺りでとうとう蝉本体に丸めチラシがぶち当たった。
当たった瞬間に蝉は大暴れを始め、想像以上のスピードでマンションの廊下を飛び回った。
私は持っていた日傘を広げて防壁代わりにし、その場に縮こまった。途中、蝉が日傘にぶつかる音が聞こえ、ヒヤリとした。
ややあって、周辺が静かになる。
恐る恐る周辺の様子を確認すると、蝉はやや離れた階段の踊り場付近にとまっていた。
しめた!今がチャンス!と慌てて廊下に落っこちた丸めチラシを回収し、玄関ドアの鍵を開けて家の中に滑り込む。
無事に蝉から逃げ切る事が出来た。鍵をかけた瞬間、心の底から安堵した。そして他のマンション住人と出会わなかった幸運にも改めて感謝した。
実にアホらしく見えるが、この時の私はそのぐらい必死だった。
そして今年もいよいよ夏本番。
またマンション敷地内に蝉がボトボト落ち始めている。
丸めチラシに加えて新たな武器、虫取り網を手に入れた私はまた蝉との死闘を繰り広げるはめになりそうである。
そろそろ諦めて引っ越すべきだろうか。
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