伊世

なんでもない日常の物語を書いてます。ギターが好き。

伊世

なんでもない日常の物語を書いてます。ギターが好き。

最近の記事

【掌編小説】パンケーキとウサギのしっぽ

その女子高生…友達の妹は、スマホに大きなふわふわの白い毛玉みたいなストラップをぶら下げていた。 着崩した制服。短いスカート。つやつやの長い黒髪。鞄にじゃらじゃらついたぬいぐるみ。いかにもイマドキのJKといった感じ。その子はかったるそうにスマホをいじっていた。 友達の妹と駅でばったり鉢合わせて、そしたら友達はわたしを置いて席を外してしまった。 「それ、かわいいね」 わたしはスマホについた毛玉を指さして言った。無言の時間があまりに辛くて、必死に絞り出したセリフだった。 妹

    • 【掌編小説】おそろいチュニック

      今日は凡ミスのオンパレードだった。ちょっと、凹む。いや、大いに萎える。ちゃんと集中してやってる、なのにミスした。いつもはちゃんとできてる、なのにミスした。あんたっていつもそうだよね、と自分を責める自分が出てくる。イヤになる。 明日は休日。もう思う存分寝続けよう。ふて寝だ。そう誓って、お風呂上がり、ベッドでゴロゴロしながらスマホをいじっていたら、同居人に呼ばれた。 わたしには二人の同居人がいる。秋の大仕事を終えて、ちょっと落ち着いた二人は最近、家に帰ってくるのが早くなった。

      • 【掌編小説】フォンダンショコラの思い出

        好きなものを、好きと言えない時期があった。 わたしにとって、それは学生時代のことで、その一つが、「甘いもの」だった。 甘いものに喜ぶようなタイプじゃないよね。みんながジュース選んでも一人だけブラックコーヒー飲んでそう。同世代の子達より、ちょっと大人びてる。そういうイメージだったのだ。 そして、当時のわたしは律儀にもそのイメージに背かないようにと、甘いものが苦手な「キャラ」を演じていた。 実際のわたしは、超がつくほど甘党なのに。 そんな昔のことを思い出したのも、同居人

        • 【掌編小説】青い花火の夢を見た

          天高く登った玉が、頭上で弾ける。 満開の、花火が舞い散る。 次々と打ち上がるのは、青い、花火だった。 青、青、青。 海を浸したような青。 空から切り取ったような青。 薔薇の花びらをもぎ取ったような青。 開いた火花は、空に、こぼれ落ちていく。 頭上に広がる光景は、美しいはずなのに。 体の芯に氷を流されたみたいに、内側から冷えていく。 冷たい。寒い。 ここはどこだろう。 逃げ出したいのに、体は指先一つ動かせない。 真っ暗な誰もいない、知らない場所で、ただ一

        【掌編小説】パンケーキとウサギのしっぽ

          【掌編小説】深夜3時にマーマレード

          最近、寝つきがとても悪い。悪いと言うか、眠れない。眠くなってきたなと布団に入ると、途端に目が覚めてくる。そんな日が連日やってくる。ようやく眠れたと思えば、大抵悪夢だ。寝起きは最悪。どうすりゃいいの。 そうやって布団の中でぐずぐずしているうちに、お腹が空いてきてしまった。 音を立てないように、キッチンカウンターの灯だけつける。吊り下げられたランプの、橙色の光が灯る。 わたしには同居人が二人いる。二人とも忙しい人たちで、家に帰ってこない日も多い。今日は二人とも帰ってきた。夏の

          【掌編小説】深夜3時にマーマレード