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EP036. プレゼンとても良かったよ
今日は経営層向けのプレゼン。
新規事業を次のステップへと進めるためにはなんとしてもこの経営会議を通さなくてはいけない。
このプレゼンを取り仕切るのは私。チームリーダーとしてメンバーを率いて、厳しい条件を乗り越えながら半年間育ててきた案件だけに気合いが入る。
このプレゼンの準備はメンバー全員で取り組んできた。
しかし、最初から上手くチームがまとまっていたわけではない。
締め切りまで残り三週間の頃。
もう仕上げに入っても良い時期だというのに、なんと上層部から方針変更の指示があった。ここから案件を改めてまとめてプレゼンまでもって行かなくてはいけない。
「そんなの無理ですよ。」
「もちろん分かってるよ。でもここを乗り切らないといけないから頑張って協力して。」
「リーダー自身の評価のためじゃないんですか?そんなの頑張れないですよ。」
こんなときには必ずと言ってもよいほど非協力なメンバーが出てくる。
私がメンバーでも同じことを言っていたかも知れない。
なかなかメンバーの協力を得られないまま、一人で頑張る日が続いた。
毎晩徹夜。
始発でシャワーと着替えに家へ帰り、少し仮眠をとってまた出社する。
1週間ほどそんな日が続いた夜、ある先輩が声をかけてきてくれた。
「大変そうだね。大丈夫?」
いつもお世話になっている先輩。
他部署の先輩なんだけど、出身が同じだということで可愛がってもらっていて、よく仕事上の相談をしていた。
「話…、聞こうか?」
ことの顛末を説明すると、先輩からこんな言葉が出てきた。
「ポイントは三つあってね。」
先輩のアドバイスはこうだった。
チームのメンバ全員に1on1で面談をして、以下の三つのポイントを伝える。
・なぜ厳しい条件のこの案件に取り組むのか、成し遂げる意味。
・どれだけこの案件を成し遂げたいのか、その熱意。
・嫌ならチームから降りても良い、選択は自由。自分一人でもやり遂げるという本気の決意。
早速私は翌朝から面談を始めた。
メンバーにはチームを降りる者もいた。
残ったメンバーも「言いたいことは分かった」という程度。本気になる者はおらず、結局私は孤立した。
「誰も付いてきてくれなかったな。」
私はこの程度かと落胆したが、泣き言なんて言ってられない。
締め切りまであと10日強。加速しないと間に合わない。
徹夜が続くと集中力がなくなってくる。
なんとか起きていられても生産性は急激に低下していった。
「何やればいいっすか?」
チームのメンバー数名が声をかけてきた。
「手を貸してくれるの?」
「当たり前じゃないっすか。リーダー、僕らはチームですよ。この前の面談で熱く語ってくれましたよね?」
「私、一人になったかと思ってた…。」
「ちょっと他の案件で忙しかっただけですよ。さぁ、ささっとやっちゃいましょう。」
どうやら面談の後にメンバーで話したらしい。私の動きを見てから決めようって。
一人になっても諦めない私を見て「これは本気だ」と手伝うことにしたようだ。
メンバーが加わると早い。
あっという間に片付いていく。
「私、相当生産性が落ちてたんだな。」
「寝てなけりゃ誰でもそうっすよ。」
「まぁ、そうだね。」
何とかプレゼン二日前に準備を終えることができた。
あとは本番で力を出し切るだけ。
「少し休んでください。あとは僕らに任せて。」
メンバーの言葉に甘えて力を蓄えることにした。
プレゼン当日、スライドをチェックするとプレゼン資料はさらに説得力を高める資料へと進化していた。メンバー総出で磨き上げてくれたのだ。
そのおかげでプレゼンは大成功。経営層からは絶賛を受けた。
やり遂げた。
このプロジェクトは必ずうまくいく。
絶対的な自信が体の芯から外側に向かって流れ出す。
高揚感にも似た開放感に浸っていると後方から声がした。
「プレゼンとても良かったよ。」
振り返ると、いつもアドバイスをくれる例の先輩だ。
「ありがとうございます!チームのメンバーみんなが全力で協力してくれて…。これも先輩のおかげです。」
「チームがまとまったようだね。良かった。きっと社長決裁は通るだろうから、これからが大変だね。この案件はでかいから。でも良いチームがあるから大丈夫かな。」
先輩に褒めてもらえるのは素直に嬉しい。
的確なアドバイスをもらえる先輩。
だけど、口数は少なくあまり感情を示さない人。
そんな先輩が褒めてくれるのだから尚更嬉しい。
そして、私だけでなくチームを褒めてくれたのが本当に嬉しかった。
チームの力で成功させたプレゼンだったから。
「ありがとうみんな。チームのみんながいてくれたから成功させられたよ。」
私はこの素晴らしいチームに救われた。
メンバーみんなの働きに応えるべく、何としても成果を上げたい。
しかし課題は山積している。
「さぁ、これからどう攻めていくかな。」
未来に思いを巡らせる。
「絶対にこのプロジェクトを成功させてやるんだから。」
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