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EP032. それ以上頑張らなくてもいいですよ
「今回の改善はこれが限界かなぁ…。」
この部署では社内向けの業務改善コンサルを実施している。
私の担当はクリティカルな業務の分析や非効率な業務の効率化がメイン。
該当部署では気付かない、他部署からのまっさらな視点をもって各業務の必要性を一から見直す。
一発改善で大きな成果を上げると脚光を浴びるけど、多くの場合は小さな改善を積み重ねて成果を作っていく。実はなかなか泥臭くて地味な仕事。
業務改善ではマクロ的視点とミクロ的視点の両方からの分析が大切だけど、今回の仕事は特にミクロ的視点がポイント。泥臭くて地味な作業がキーになる。
可能な限り業務を細分化して改善する。
これを何度も繰り返して改善率を積みあげる訳だけど、繰り返していると、飽和点というか改善率が上がらない天井が現れる。ここからが本当に大変なフェーズだ。
今回の仕事も色んな角度からテコ入れして、なんとか30%改善まで持ち上げた。
「これじゃ弱いなぁ。もう少し頑張ってみて。」
もう何度目だろ。
上司の「もう少し頑張ってみて。」という言葉を聞かされるのは。
きっと100回は超えている。
十分な結果が出ていないことは分かるけど、これだけ多角的に攻めていても結果が出ないということは、相当な発想転換をしない限りこれ以上の改善は難しいだろう。
業務をこれ以上細分化することは厳しい。
となるとどうすれば良いのか。
全く違う角度での切り口が欲しい。
水平思考で考えてはみるものの、そう簡単にアイデアは降りてこない。
私は特にこの水平思考が上手くできないからなおさらだ。
「あぁ、どうしたらいいんだろう…。」
完全に煮詰まっている。まさに八方塞がり。
何とか糸口を見つけて流れに乗りたい。
「もう分かんないよ。とりあえず休憩だ。」
気分転換に中庭を歩こう。
「先輩、お疲れ様でーす。」
隣のチームの後輩だ。中庭のベンチに座っていた。
「あ、お疲れ。」
私もベンチに座る。
「先輩、どうしたんですか?なかなかの『どんより顔』ですよ。肌の感じ、ヤッバいですよ。」
「分かるー?あぁ、キーポイントが見えないのよー。」
空へ向かって腕を突き上げ、グーッと背伸びしてみる。
「あの部署の件ですか?」
「そう。」
「あそこは元々意識高めですもんね。でも進捗報告では『30%改善』って見ましたけど。何か問題があったんですか?」
「もっと頑張れって話。」
「30%じゃダメなんですか?厳しいですねー。あそこで30%なら十分だと思うのに。」
「まあね。でもやっぱり30%だとインパクトが弱いんだよ。それは私も分かる。経営層には微妙な数字で響かないからね。」
「そうかも知れないですけど…。」
「こんなんじゃダメだ…。もっともっと頑張らないと。」
うなだれる私を見た後輩が、思いつめたような表情で私の肩を揺さぶってきた。
「何言ってるんですか!そんな必要ないですよ。先輩は十分頑張ってるんですから。それ以上頑張らなくてもいいですよ!何かあったら私が許しませんから!」
「分かった、分かったよ。いいから落ち着きなさい。」
「すみません…。先輩がいつも頑張っているのを見ているから我慢できなくて、つい…。」
「それ以上頑張らなくてもいいですよ!」か。
後輩は私の頑張りをしっかりと理解して認めてくれているようだ。
「私が許しませんから!」なんて言ってくれる味方が私にもいる。
すぐ近くに味方がいる。
堅く重くなっていた心がふわっと軽くなった。
「生意気言っちゃって。先輩にそんな言葉かけるの10年早いよ。」
照れ隠しにそんなことを言いながら、紅茶を一口飲んだ。
もうひと踏ん張りだな。
「さぁ、もう一回見直すか。仕事だ、仕事。」
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