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EP002. 一生懸命ってカッコいいじゃん!
「またやっちゃったな。」
仕事も恋愛もそう。最初は調子良いのに、いつも途中でうまくいかなくなる。
頑張ってるんだけど、頑張れば頑張るほど空回りしてしまう。
理由は分かってるつもり。
きっと力が入り過ぎてるんだ。バカみたいに。不器用で。
「彼女みたいにスマートに生きられたらどれだけ楽なんだろう。なんでもうまくいくんだろうな。」
彼女と言うのは、私の親友。
華やかで、気立てが良くて、しかも美人。異性からも同性からも人気がある子。
とても大切な友人なんだけど、心のどこかで嫉妬してしまっている。
「ハロー!どうしたの?元気ないね。」
ここは駅の近くのファミレスで、私たち二人が息を抜ける場所。高校のときからそうだった。ランチタイム後の僅かな時間だったけど、お茶をしようと彼女と待ち合わせていた。
「ちょっと相談したいことがあってね...」
私は彼女に昨日の出来事を話した。
「そんなことがあったんだね。」
彼女は私の話を遮ることなく最後まで静かに聞いてくれた。
男友達のように変にアドバイスしたがらないから女友達は相談し易い。彼に相談するより彼女。ただ、今は相談したくても残念ながら彼はいないんだけど。
「あなたの仕事のことは私にはよくわからないけど、あなたが頑張ってるのって、私は好きだよ。高二の文化祭のこと覚えてる?」
あのときもそうだった。
模擬店の看板担当になったのは良いけどうまくイメージを絵にできなくて、朝まで何度も何度も修正した。頑張ってるんだけど、頑張っても頑張っても結果に結びつかなかったのを思い出した。
「私って昔からそうだったな。看板作りで徹夜だなんて。一生懸命に頑張るだけで何をやっても空回り。」
過去を振り返っても、うまく行かなかったことばかりが思い出されて泣きたくなる。
「分かってないなー。あのね...」
彼女が私の瞳を覗き込むように話しだした。
「あの模擬店がなぜうまくいったか覚えてないの?あの看板がとっても評判良かったからなんだよ。大して美味しくなかったのに。」
彼女はいたずらな微笑みを浮かべながら続けた。
「普通なら適当に描いて済ますものを、あなたは妥協したくないって何度も何度も修正したじゃん。それも夜通しだよ。でもね、あなたが頑張ったおかげで、とっても素敵な看板になったよね。それが好評で大繁盛したんだよ。お客さんみんなが口を揃えて褒めてたんだから。」
言われてみるとそんな気がした。大して美味しくなかったのに大繁盛したことははっきり覚えている。でもそれは彼女が売り子で人気だったからだとばかり思っていた。
「頑張れるのって、あなたの良いところなんだよ。一生懸命ってカッコいいじゃん!」
私が短所だと悩んでいた面を彼女は長所だと言ってくれる。
「暗い影の面を見て悩むのも時には必要かも知れないけれど、明るい光の面を見続ける方が楽しくない?」
今さらながら彼女の人気の理由がよく分かった気がした。
そうだ。彼女に相談するとき、彼女はいつも私の良い面を見てくれている。人の光の面を見てくれるのだ。
「いつも優しく支えてくれてありがとうね。元気が湧いてきたよ。私も光の面を見るようにする。」
私はそう言って、彼女と別れた。
「彼女はスゴイな。彼女のように生きられたらどれだけ楽なんだろう。」
そう考えながらも、また彼女に嫉妬している自分がいた。
「光の面、光の面。嫉妬なんてしてないで、彼女の光の面を見よう。」
もう昼休みが終わる。急がなきゃ。
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