過疎の街で10年後を考える

昨日はバイトを休んで、
とある博物館のイベントに行っていた。
実をいうと、
今月この博物館のイベントに来るのは3回目だから、
わたしは本業の会社よりも70キロ離れたこの博物館のほうが多く来ている。
博物館のエレベーターに乗っていても、
会社のビルのエレベーターより乗ってるんだなと笑いそうになった。

その博物館がある街はかなり過疎っている。


公共交通機関で行くと往復4000円以上かかるので、
わたしはいい年こいて母親に車で乗せてもらって、
イベントには2人で参加している。
わたしが老け顔で母親が若く見られるので、
初対面の人には親子ではなく友達に見えるらしい。

2人ともアラフォーに見えている気がする。悲しみ。


道の駅のお手洗いよりバスターミナルのほうがキレイだし、
わたしの好きな分野の展示もあるので、
バスターミナルに寄った。
「介護施設のお祭りで花火まで上げちゃうなんてすごいねえ」と2人でポスターを見ていたら、
地元のおじいさんに話しかけられた。
おじいさんは車もあるけど運動のために散歩しているらしい。
新しい集合住宅に住んでいるけれど、
お風呂で水をじゃぶじゃぶ使うと女房に怒られるのでほとんどお風呂は使わないそうだ。
この街の水道代はわたしが住む街の2.5倍だとこの前博物館の館長さんが言っていた。
それもあるのかなと思って聞いていた。


去年の末に突然倒産した地元のスーパーの前を通ってみると、開いていて驚いた。
え?いつの間に復活したの?
入ってみると規模は半分以下になっていたけれど、
野菜や果物を中心に販売していた。
安いからか意外と人が来る。
店員のおばあちゃんに話しかけられたので、
「いつから開いてたんですか?」と聞くと、
「6月10日から!スーパーないとみんな話す人いないからねえ!」と教えてくれた。
この辺りはコンビニが1軒あるだけなので、
ここが潰れたら10キロ先まで行かないとスーパーは無い。
移動販売車が来ていたそうだけど、
スーパーが復活してみんな助かっただろうなと思った。


行きたかったラーメン屋さんはおばあちゃん1人でやっているお店なので定休日じゃなくても休みになる。
昨日は雨も酷かったのでやっぱり休みだった。
今月3回目の洋食が美味しいカフェに行った。
他の席に座っているお年寄りを見て、
母親が「あの人達この前もいた!」と小声で笑う。
8月頭に来たときにも楽しそうに話していたおばあちゃん達らしい。
この前彼女達は近くの町のスーパーの話や、
この街が賑わっていた頃の話、
共通の知り合いの話などで、
近くの席にいたおじいちゃんも交えてずっと楽しそうに話していた。
あんな気の合う話し相手がいるなんて、
とても幸せな人達だと思う。

昨日も結婚した頃の話や学生時代の話など、
途切れることなくずっと話していて、
他の客が帰ると席を移動してまた話していた。
どうやら彼女達の特等席のようだ。

カフェは老夫婦がやっているので、
客がお会計したいのに気づいてもらえないときは、
「ママ!お客さんきてるよ!」
と彼女達が声をかけてくれてお礼を言われていた。
カフェにはこの街の昔の写真がたくさん貼ってあるし、
アルバムや本も置いてある。
わたしの地元にこんな店があったらずっと読んでるのになぁといつも思う。


博物館のイベントでは、
70代から90代の人の話を聞いた。
91歳のおじいちゃんは、
人前で話すのに一生懸命練習したのだろうと伝わってくる話し方で、
昔は管理職だったと言っていたし、
きっと若いときから真面目な人なんだろうなと想像がついた。
76歳のおばあちゃんは、
見た目は60代に見える元気な人だった。
母親はまた「あの人何かのときにも見たよ」と言っていた。たぶん3年前のイベントだ。
彼女は客が聞きたい分野の話を交えながら、
53年前に結婚した旦那さんの話をして笑いを取っていた。
23歳のときからずっと一緒にいるのか…すげえな。
こんな人前でわざわざ旦那さんの話をするなんて、
きっと幸せなご夫婦なんだろうなと思う。


館長さんと70代のおじいちゃんの解説を聞きながら博物館を周る。
70代のおじいちゃんは本を書いた人だけあってさすがに知識が深い。
彼もこの街が地元だから子供の頃の話もしてくれたけれど、
ただのおじいちゃんと言うよりも知識人という感じがする。
館長さんのガイドも今月3回目だけど、
毎回客層に合わせて違う案内も交えてくれるので飽きない。
91歳のおじいちゃんも途中までは一緒に周って、
「これは自分が高校生のときにアルバイトで掘った池だ」などと話していた。本当に元気な人だ。


博物館にも現役で働く76歳のガイドさんがいて、
わたしは彼の過去の話を聞けるイベントにも参加したことがある。
事故の悲惨さや残された人達の苦労を強調したドキュメンタリーや本とは違って、
現実的で淡々とした話にわたしはとても驚いた。


家に着いてから、


あの街で今日出会った人の中で、
10年後もお元気な人はいるのだろうかと考えてしまう。


館長さんは63歳だからまだ大丈夫かもしれない。
でも散歩してたおじいちゃんも、
スーパーのおばあちゃんも、
カフェの老夫婦も、
常連のおばあちゃん達も、
イベントで話してくれた方々も、
博物館のガイドのおじいちゃんも、
みんな居なくなるのでは?と思うと、
わたしはやっぱり、
バイトもお金も大事だけど、
行けるうちに行きたいところには行って、
聞けるうちに話を聞いておこうと思った。


そしてこういう活動をしているとき、
わたしはいつも好きな人のことをすっぽりと忘れているのだ。



だからわたしの地元にも、
昔の写真が見れるカフェとか、
アクセスの良い図書館とか博物館とか、
バスターミナルに昔のものが展示されていたりとか、
歩いてるだけで昔話をしてくれそうなお年寄りに会ったりとか、
そういうことがあったらなぁといつも思っている。