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③移住への決意
友人のカフェでテーブルに突っ伏している妻を横目に自分もぼんやりと窓から夕方の山の稜線を眺めていた。
『どうだったの?』
「この1年が無駄になってしまったのかなぁ」
僕たちはこの1年間、ここに通って四季を通じて厳しい北の大地を精一杯感じようとしていた。
去年の10月に移住の決意を胸に訪れた最後の季節に僕たちの決意は行き場所を無くしてしまった。
自分たちの場所探しのエピローグはそんなに簡単なものでは無かったのだ。
話しを戻すと、3年前に土地探しを兼ねての旅行へ行ったとき、ある素敵な老夫婦に出逢った。2人は素敵な笑みで僕たちを出迎えてくれた。
2人は春から夏の間にだけオープンする喫茶店をされていて、夫婦が愛する広大な庭は樹々や花々がその隅々までとても素敵にそして美しく管理されていている。本当に2人だけでこの場所を手入れされているのか疑ってしまうくらいの広大な庭なのである。
僕たちは幾つかの土地を現地の不動産屋さんに紹介してもらっていた後で、世間話の中、何かのタイミングでその事を彼らに初対面にもかかわらずお話しした。
『実は私の知り合いに土地を譲りたい人がいるよ』
詳しく聞いてみたら僕たちが探しているイメージに合いそうな土地を知り合いが手放そうとしているようだった。
それは今まで感じてきた何かが動き出した感覚だった。そして僕たちが想像すらできない何かに導かれているようで僕の胸は高鳴ったことを覚えている。
そこから僕たちが1年を通してその土地を訪れることになったのだ。