蚊帳付きハンモックをポチる話
今日は朝から体が重かった。
前日、夜更けまで自転車を漕いで、早良区の山の中で野郎三人で蛍を眺めて感動していた。
いつも車で通る場所だったが、少し脇道に入り、川沿いを道なりに進むと人家もまばらで、周囲に月明かりしかなく、川面や森の木々に蛍が光る景色は素晴らしかった。
おぼろげな月明かりの中では、空が最も明るく、山や木々は明と暗の二色だけに塗られて、青いには違いないがその色をどう形容し、絵具で再現できるか分からない。
帰ってからストレッチをせずに寝たのがよくなかった。
かといって、体が重いだけで眠いわけではないので、散歩をすることにした。
家から一直線に那珂川を目指し、上流から続く遊歩道の終わりにたどり着き、そこに置いてあるベンチ代わりの白く四角い石に腰掛ける。
対岸に中年男性と思われる人が、川に入り、岸壁にはまっている格子の奥の暗い用水路の中をずっと覗いている。
その岸辺には幼い女児が二人、走り回っている。
腹が減ったので、繁華街の方を目指して小一時間歩き、目当ての店は行列ができていたので、もと来た道を引き返してステーキ屋に入る。
繁盛している店の中で、相変わらず杉本秀太郎の本を読み、ちょうどいい長さのエッセイに感じ入る。
コロナ対策のせいか、元からだったか忘れたが隣席との間には衝立がある。
若い女子二人が、人間関係恋愛関係のいざこざをあれこれと話していたと思うが、特に興味もないので、聞き取れる単語だけが時折耳に入る。
そのうち一人が実にさりげなく「豚汁って何か懐かしい感じするよね」と言った。
私のところにその豚汁を含む定食が運ばれてきて、ひとすすりして本当にそうだと思った。
食後にそこから程近いコーヒー屋Coffee Countyに行くと、壁に芹沢銈介の型染めの和紙が額に入れられて飾ってある。
黒の背景に様々な実に民芸的な品々が、実に民芸的な描線で描き出されていて、飽きることなく一日眺めていられそうだった。
対面にはニカラグアの老人が作った木彫りのレリーフがあり、彫られている図像はリュウゼツランの神の姿だと言う。
植物と人間が融合し、植物の緑、紫や、赤く乾いた土を思わせるような褐色等、色数の多さに引き換え抑えた調子であるがゆえに、エネルギーが沸き上がる素朴で力強い姿。
そんな品々を眺めながら、初対面の店員さんと話すうちに、Amazonで蚊帳付きハンモックをその場でポチる等。
町歩きもいよいよ、小旅行の体を為してきたように思う。