【雑記】はじめてのゲームの背景デザイン
20年前ぐらいに描いた背景デザインのラフが発掘できたので、記事のトップ画像に使用してみました。
これは当時、PlayStation向けに開発していた某RPG用のもので、世に出回っていない3D背景のデザインラフです。
決まっていないことが多ければ多いほど、デザインは楽しい
この背景デザインに取りかからないといけなくなった時、設定として、
『ボス戦用の遺跡ダンジョンの入り口』
という程度のことしか決まっていませんでした。
シナリオについても、外部の有名シナリオライターさんが担当されていたこともあり、まだ序盤の概要的なシナリオしかありません。
この背景が使われるシーンのシナリオが、何もまだ無いという状態です。
決まっていないことが多ければ多いほど、クリエイターとしてはラッキーです。
なぜなら、自分で考えられる範囲が増えて、よりクリエイティブな仕事ができるので。
ゲーム開発なんてスムーズに進まない
ゲーム開発は複数人で開発することがほとんどですすが、さらに、開発会社が一社だけでなく複数の会社だったり、個人の有名クリエイターさんや、販売を担当するパプリッシャー、版権もののゲームだと権利を持っている会社、原作者等々、多くの方々が関わっています。
なので、進行にトラブルなんて付き物で、ゲーム開発が最初から最後まで平和に予定通り進行して綺麗に終わるなんてことは、まずあり得ません。
さらに、作っているものがゲームなので、その『面白さ』に明確な商品としての形が決まっているわけでもありません。
クラッシュ&ビルドを繰り返すことも当たり前のように発生します。
当時、私がデザインすることになった3D背景は、詳細設定や、関連するシナリオの用意が間に合っていない状態でした。だからといって、そこで足を止めてしまっては、ゲーム開発は進みません。
プロである以上、決められた納期までに、しっかりとゲームを完成させる必要があります。
必要なものは自分で作ればいい
背景デザインを担当する上で、設定等が用意されていないなら、自分で考えてクリエイティブすればいい話です。クリエイターなので。
決まっていないことが多ければ、決めるための行動を起こせばいいし、無いものが多ければ、生み出すための行動を起こせばいいわけです。
受け身思考になっていると、決まっていないこと、無いことに対して、不満を抱いて、求めるだけで終わりがちなのですが、クリエイターなのであれば行動を起こせば良いと思います。
また、ゲーム開発に参加する以上、自らが担当するものがゲームの中でどう使われるのか、どのような役割を担うものなのかは、ゲーム全体のことを考えて理解しておいたほうが良いです。
プロジェクトの中で、自らが部分的なパーツの存在になってしまうのではなく、ゲーム全体を見て考えて、ゲームとしての目指すべきゴールをイメージしながら関わるべきです。
ゲームとしての目指すべきゴールをイメージできていれば、無いものは自ら考えて生み出せると思うので。
自分で考える範囲が増えると、単純に楽しいですよね。(考える範囲が増えると、迷いが増えて楽しめないタイプもいますので、このあたりは、人によるかもですが…)
デザインで世界観を膨らませる
当時、背景デザインを担当することになった際、『ボス戦用の遺跡ダンジョンの入り口』という設定しか無かったので、楽しく好き勝手デザインしました。
好き勝手と言いつつも、ゲーム内の世界観を理解し、その世界における人々がどのような経緯と手法と意図で作ったものなのか、色々としっかり考えています。
デザインラフにはメモとして、当時の自分が書いた下記のようなメモが書かれていました。
たしかに当時は、そんなことをイメージしてデザインしていたような記憶が有ります。
その世界に存在していることに嘘臭さが出てしまうと、一気にチープになってしまうので、できるだけ深く細かく設定を考えます。
見た目も、伝わりやすさ、インパクト、作りやすさ、絵としての印象度・見栄え、同種のゲームとの差別化等、様々な観点から考えてデザインします。
ゲームの背景制作に関わったのは、このゲームが初めてでしたが、初めてだけに必死に設定を考えて資料を漁ってデザインしていました。
はじめてだらけのチャレンジ
それまで私は、デザイナーとして、アクションゲームのキャラクター制作しか担当したことがなく、RPGの3D背景制作は、デザインも3D制作も初めてでした。
背景以外にも、そのゲームで使われる『3Dの全魔法演出』をアイデア出しから制作までを一人で担当しています。
このプロジェクトでは、初めてデザインチームのリーダーに指名され、部下も複数人持つことになり、外部との打ち合わせにも初めて参加するようになりました。
全て『初めて尽くし』です。
3Dの魔法演出も、他の既存のRPGの演出と似たようなものを作っても意味がないので、このゲームの魔法演出はどうあるべきか、どう印象付けるか、短いスケジュールの中で色々考えて試行錯誤しながら作っていた記憶が有ります。
3Dの魔法演出は、エフェクトだけでなく、必要なモデル、アニメーション、構成、カメラ等、全般的なスキルが求められますので、必要なスキルも平行して勉強しながら身に付けていく必要があります。
今考えると、初めてのチャレンジだらけで、むちゃくちゃですね…。
でも、チャレンジできる機会なんて、そうそう自分の都合のいいように巡ってくるわけじゃないので、一度チャレンジできる機会を逃すと、次にいつチャレンジできるかなんて、わかりません。
チャレンジできるチャンスがあれば躊躇なく飛び付く。飛び付いて、自分を追い込んでから、解決策を考える。若い頃は、『勢い』と『体力』と『根拠の無い自信』だけで、色んなことを乗り越えられるので、面白そうなことには、積極的に後先考えずに関わっていきました。
…若さって強いですね。
プロなので、やるからには責任を持って、商品として御客様に喜んでいただけるものを作る必要があるので、何でもかんでも無謀に飛び付いていいわけではありませんが、覚悟を決めてチャンスを掴みにいくべき時も必ずあると思います。
全力でぶつかり、本気で取り組むから、得るものがある
当時の私は24歳の若造でしたが、どんなことでも、必死にやれば、何とかなるものだということも実感しました。
初めての背景担当とはいえ、本気で取り組んだので、背景制作の面白さをたくさん知ることもできました。
元々私はあまりゲームを遊ばない人だったのですが、ゲーム業界に入ってからは、給料のほぼ全ての使い道が、ゲーム・漫画・資料でした。(良い資料に出会ったら、お金を惜しむべきではない、と昔の上司に教わったので、画集やアメコミ、絵本、漫画やゲーム等、資料になって刺激を得られるものに散財しまくっていました。)
ゲームを知る為に、『ファミ通』という雑誌のクロスレビューで高得点だったゲームは、全て買ってプレイしていました。
自分よりも実力のあるデザイナーがこの世に存在することが許せなくて、認めたくなくて、とにかく『力』をつける為に、必死にインプットしていたんです。
若すぎて尖りまくってますねー。
でも、色々経験して一つ言えるのは、本気で全力でやったことは、裏切らないということです。
やるからには全力でぶつかる。
どんな仕事に対しても、その仕事を『好き』になり、『正しい努力』を『正しい方向』に向けて全力でやることで、たくさんの気付きや経験という財産が得られます。
全力でぶつかる姿も誰かが必ず見てくれています。
ゲーム開発は、全力でぶつかる価値のある、非常に魅力的なクリエイティブだと思っています。
それなりの頑張りには、それなりの結果しか出ません。
人生で一度くらいは、必死に全力を出し切ってぶつかることのできるような、そんなクリエイティブな機会に出会えると良いですね。
エンタメの仕事の魅力
昔、連日のように会社に泊まり込み、必死の思いでアーケード用ゲームを開発し、徹夜明けのフラフラの状態でそのゲームをロケテスト会場まで持っていって設置したことがあります。
フラフラでグッタリでしたが、ロケテスト会場で、子供たちが楽しそうにそのゲームをプレイして笑顔になっているのを見て、全ての苦労と努力が報われました。
クリエイターは、こんなささやかなことで、どんなことも報われてしまうんですね。
ささやかなことで、また次に向かって頑張れるエネルギーをもらえます。
人を楽しませるエンタメの仕事ってすごいです。
時代も変わり、泊まり込みや連日の徹夜作業のような、そんな古い時代のゲーム開発は無くなり、随分と健全な形でゲーム開発が行われる時代になりましたが、それでもたくさんのことにチャレンジし、本気で取り組み、全力でクリエイティブする価値と魅力が、今も変わらずゲーム開発にはあると思います。
気付いたらもう、ゲーム業界に入ってから、20年以上経っていたりするのですが、相変わらずゲーム開発の面白さに魅かれて、私は、ずーっと今も全力疾走だったりします。
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