日本学術会議任命拒否問題 憲法15条を授権法の代わりに悪用し独裁を行う菅総理!! 岩上安身によるインタビュー第1016回 ゲスト 立命館大学大学院法務研究科教授 松宮孝明氏 後編 2020.10.27
(IWJ編集部)
2020年10月27日、岩上安身は日本学術会議問題で菅総理により会員への任命を拒否された6名の学者のひとり、立命館大学大学院法務研究科教授の松宮孝明氏にインタビューを行った。10月13日に行われた前回インタビューの続編となる。
前回のインタビューでは、菅総理が憲法第15条1項の「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」という条文を持ち出して、「公務員の選定は、国民固有の権利であり、任命権者たる内閣総理大臣として責任をしっかり果たしていく」と発言したことを受け、松宮教授が次のように指摘した。
「これ独裁なんですよ。しかも憲法15条1項を持ってきた。公務員の選定・罷免権は国民にあるという条文なんですけど、私(内閣総理大臣)は国民を代表しているから特別職の公務員である学術会議の会員だって、私が国民だということで好き勝手にできるんだという理屈を振り回し始めた。こうなると憲法15条によって学術会議法なんて完全に無視されるんですね」
さらに松宮教授は「憲法15条は内閣総理大臣に公務員の人事に関して完全にフリーハンドを与える条項だと菅総理は読んでいることになるんです」、「学術会議法の『推薦に基づいて任命する』を総理に全権があると読み替えれば、次に来るのは、国立大学の学長、そして裁判所の裁判官。みな『推薦に基づいて任命』がひっくり返れば、なんでもできてしまう。独裁になる」と、訴えた。
今回のインタビューでは前回に引き続き、まずは菅内閣による憲法15条の悪用について、詳しくお話をうかがった。
松宮教授は、ナチス時代の授権法について、次のように説明した。
「ワイマール憲法の中にあった緊急事態条項なんですね。戦争であったり大災害であったり、国家が正常に機能しない状況に陥った時には、立法権も含めて掌握する。立法権を、行政の長が持ってしまうのが授権法です。1933年の授権法は別名『全権委任法』です」
松宮教授は、授権法と菅総理が学術会議会員任命拒否の根拠として憲法15条を持ち出すことの関係性についても解説した。
「あらゆる立法権を含めた権限を、ヒトラーに集中させた。緊急勅令という形で出された。今回の菅総理の憲法15条の使い方は、正確には授権法ではありません。
職務の独立性が保証されるべきあらゆる公務員について、菅総理は憲法15条を使って拒否できるという論法を使っています。日本学術会議でこれが成功すると、ほかの特別職の公務員についても、同じようなことが起きる可能性があります。
まっ先に思い浮かぶのが、国立大の学長です。裁判官に急に波及するとは思えませんが、最高裁判所長官の指名について、内閣が行いますので、同じようなことが起こっていないか。指名名簿の拒否ができますという事がありうるかもしれない。
間接的に立法、司法の支配ができる、という恐ろしい解釈だということを知ってもらいたくて、ドイツの授権法の話をしました」
これについて岩上安身は、以下のように述べた。
「安倍前総理はしばしば『私は立法府の長である』とか『森羅万象を司る』という失笑を誘う失言をしてきました。あれが失言でもなく知識の欠落でもなく、本気で3権の長を兼ね、森羅万象を司るつもりでいて、反対するような官僚をパージしていき、官僚が安倍菅政権に従順な人物たちで固められる。そういう方向性を目指していると実は言っていたのではと、今振り返ってみると思います。
安倍政権との連続性を考えてみても、菅総理は、本気でそんなことを考えているのはないかと、かねてから準備しているのではと考えてしまうのですが」
この岩上安身の言葉に、松宮教授は次のように答え、同意した。
「知り合いの行政法の先生から話を聞いたら、同じことを仰るんですね。授権法以外でもナチスが政権を掌握していく過程で、憲法の条項を使って、その下にある法律のルールを無視していくこと。
今起きていることと同じです。憲法65条を持ち出して、行政権は内閣にあると言う使い方をしています。または憲法72条の行政を指揮監督するという箇所を強調します。いずれも、一般的・抽象的な規定なんです。
常に具体的法律があり、今回の場合は学術会議法がある。具体的な法律があるのに、一般条項をつかうというのはとても危ないことだというのは歴史学的に言われていることです」
また、岩上安身が「ナチスがどのように全権を掌握してきたかというプロセスは、今とても参照すべき事態であると思います」と述べ、「麻生太郎氏が副総理時代に『ナチスの手口に学べ』という発言をして話題になりましたが、忖度官僚たちが本当にナチスの真似を始めたのかもしれませんね」と指摘すると、松宮教授は10月5日のTSB系列「グっとラック」に出演した際に、橋下徹氏と議論になったことをふまえて、次のように語った。
「その心配は当たっている感じがします。法改正ではなくて憲法15条の解釈でやるといってますね。『グッとラック!』で橋下氏と議論したときに、彼が持ち出した方法なんですよ。彼が大阪市長時代にやっていたことなんだと思っています。彼自身が解釈による全権委任法を主張した張本人だと、私、思ってますけども」
松宮教授は10月23日に日本外国特派員協会で、今回任命拒否された6名の記者会見を行った。会見には松宮教授と岡田正則・早稲田大学教授が出席。小沢隆一・慈恵医大教授と芦名定道・京都大学教授はリモート参加し、宇野重規(しげき)・東大社会科学研究所教授と加藤陽子・東大教授はメッセージを寄せた。
この会見で松宮教授は「官邸は憲法15条1項にある国民の公務員の選定・罷免権を根拠にして今回の措置は合法であると説明しています」、「これは恐ろしい話。内閣総理大臣は国民を代表しているから、これからどのような公務員であっても自由に選び、あるいは選ばないとすることができる、その根拠は憲法15条なのだと宣言したということだからです」、「ナチスドイツのヒトラーでさえ、全権を掌握するには特別の法律を必要としましたが、菅総理は現行憲法を読み替えて自分がヒトラーのような独裁者になろうとしているのか、というくらい、これは恐ろしい話」と訴えた。
インタビュー中、松宮教授はこの会見での発言に関して次のように補足した。
「日本はまだ独裁じゃないんですよ。今ならブレーキはかけられます。国会でこの問題は徹底的に追及して欲しいと思います。そして専門家、世論は敏感に反応していただかなければブレーキはかかりませんよ」
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