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「AI時代」の立役者・NVIDIAがソフトバンクからARMを買収した結果、勢力図はどう変わるのか【#96】

今日のトピックは「ソフトバンクからARMを買収したNVIDIA」について。

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この記事のまとめ

NVIDIAが株式を含めて400億ドルでARMを買収
NVIDIAを含めたCPUの設計がARMの事業
ソフトバンクにとってはNVIDIAへの再投資か

NVIDIAは、400億ドルでARMを買収

GPUを中心に手掛ける半導体メーカー・NVIDIAがCPUの設計を行うARM400億ドル(約4.2兆円)で買収することが決まりました。ARMは2016年に、ソフトバンクが320億ドルで買収し、株式を非公開化していました。そのうち215億ドルは株式をソフトバンクに譲渡することで支払われます。

NVIDIAの創業者でCEO(最高経営責任者)を務めるJensen Huang氏はARMの本社があるイギリスに新しいAI研究教育センターを設立する旨を発表しました。
また、ARMはNVIDIA以外にも世界のほとんどのCPUの設計を手掛けているため、NVIDIAという半導体メーカーの子会社になることで中立性が失われると大きく懸念されていました。その点について「ARMは独立した部門として取引するため、顧客との中立性は維持される」と述べています。実際にはそう述べてもなお議論を呼ぶことには違いなさそうです。今回の買収も、規制当局の説得にまだまだ時間を要すると見込まれています。
関連記事:Arm共同創業者が4.2兆円でのNVIDIAからの買収に反対、独立性確保のため「Save Arm」キャンペーンを開始

とはいえそもそもGPUとは何なのか、この買収にどんな意味があるのか改めて以下に記します。

ゲームから機械学習・自動運転に広がるGPU

NVIDIAの主力であるGPUはコンピュータゲームに代表されるようなリアルタイム画像処理に特化した演算装置で、CPUよりも複雑な計算には弱いものの、座標変換や陰影の処理に必要な単純な並列処理に強いことが特徴です。

実際計算を行う「脳」にあたる「コア」が例えばCPUではデュアルコア(コアが2つ)・クアッドコア(コアが4つ)というように1つから数個程度ですが、GPUは、1つに数千個のコアを搭載しており、CPUとは桁違いです。

NVIDIAはそのGPUにおいて圧倒的なシェア率を誇り、先日も新世代機となるRTX 30シリーズを発表しました。人気のあまり、初回入荷分は既に各所で売り切れ状態になっています。

しかしながらその利用用途はゲームシーンに留まりません。
高画質で高速のグラフィックはVR/ARの時代には必要不可欠な要素です。
画素数や処理速度は「VR酔い」や体験にも大きく影響してきます。

さらにGPUの演算能力の高さに注目して、画像処理以外の目的に応用する「GPGPU」という技術が近年注目を集めています。

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画像出典:KAGOYA JAPAN

その最たる利用例が機械学習です。

もともとは研究者が気象シミュレーションなどにGPUを役立てる取り組みをはじめ、そこから画像処理以外に計算能力を使うプログラミングモデル・CUDA が発表されました。
結果、GPUを用いた物体認識のモデル・AlexNetが画像認識のコンテストで圧倒的なブレイクスルーを記録したことで注目を集めました。

そして現在ではスーパーコンピューター仮想通貨(暗号通貨)マイニングなどにもGPUが使われています。

その結果、現在NVIDIAの時価総額はIntelよりも高くなっています。

ARMがしているCPUの設計とは何か

ARMはCPUの製造ではなく、設計のみを行っている企業です。顧客からライセンス料やロイヤリティを受け取るビジネスモデルで成り立っています。

各社はCPUの基本的な設計をARMに任せ、それを基に自社の強みとなる機能に集中しちえCPUを製造する仕組みになっています。かくいうNVIDIAもARMの顧客のひとつです。

ちなみにNVIDIAもGPUの設計と販売を行うのみで、製造は行っていません。実際にGPUを製造しているのは台湾のTSMCです。
NVIDIAとARMはファブレス(fabless:fabrication facility「工場」を持たない会社)メーカーという共通点を持っています。

もともと1990年にAcorn ComputersとAppleのジョイントベンチャーとしてスタートした企業で、AppleもIntelのCPUからARMを用いた独自設計のCPUに切り替えることが明かされています。
関連記事:【VR/AR】 AppleがWWDC20で見せた帝王の布石 |今日の「ヤバい!VR」#16

特に省電力がARMの強みで、スマホ向けのCPU設計で大きく飛躍しました。さらに今後はIoTや自動運転でCPUの活用が期待されます。NVIDIAも自動運転などには力を注いでいるため、非常にシナジー効果の高い買収だったと言えるでしょう。

しかしながら、中立性に関する競合企業の懸念はもっともです。

RISC-Vへの移行する可能性

ARMの買収によって一部の競合企業はRISC-Vへと移行する可能性が示唆されています。

RISC-Vはカリフォルニア大学バークレー校のDavid Patterson氏らが定めたRISCの原則に従って作られた命令セットアーキテクチャ (ISA) 。研究から始まったために「オープンソース」で作られており、IPビジネスを展開するARMのようにライセンス料やロイヤリティを必要としません。RISC-Vは非営利団体「RISC-V Foundation」によって管理されて、GoogleQualcommNvidiaなど様々な企業がメンバーとして参加しています。

ちなみにPatterson氏が、スタンフォード大学の元学長で、現在はGoogleの親会社であるAlphabetの会長を務めるJohn Hennessy氏と共著で記した教科書はコンピュータアーキテクチャの領域において「パタヘネ」としてあまりにも有名です。

しかしながら異なる設計のチップを並べることは現実に可能であることや、独占状態になるよりも健全なマーケットを築くことができることを鑑みれば、これは卑下することではないといえます。

ソフトバンクにとっては再投資か

さてソフトバンクはUber、WeWorkを含めた投資先の苦戦が続いているために今回のARMについても後ろ向きな意見がほとんどです。

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しかしながら今回NVIDIAは400億ドルの半分以上、215億ドルを株式譲渡によって実行しています。そのため、ソフトバンクにとってはNVIDIAのもとでARMが立て直し、結果としてNVIDIAの株価がさらに上昇すれば売却額以上の利益を得ることが可能になり、ある意味ではNVIDIAへ再投資した表現することもできるかもしれません。
(もっとも、かつてソフトバンクは保有していたNVIDIAの株式を売却し、株価が上昇するタイミングを逃していますが・・・)

いずれにせよNVIDIAとARMは非常に高いシナジー効果を発揮できる半導体メーカーで、IoTや自動運転における高水準のCPU、GPUが開発されるはずです。NVIDIAがこれまで参入していなかった領域にも活動を広げるきっかけとなることを期待しています。

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出典:日本経済新聞,エヌビディア、アーム買収のなぜ(3)課題は中立性ほか

会社のみんなとドーナツ食べます。