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大切なもののために歩き続ける【世界一周の船旅とハワイと桃子さん】
はじめに
あなたには旅をしてどんなものを得ることができましたか?
旅の楽しさを得たり、真面目にコツコツ生きるなど、あなたの人生を形作る価値観を得たはずです。
今回私がインタビューするのは高尾桃子さん。
旅の中で、生涯ブレない自然や平和を大事にする価値観を得たそうです。
私とは、3年前に広島と長崎の被爆者の体験談を発信する活動 『おりづるプロジェクト』で知り合い、現在は広島のNPO法人Peace Culture Villageで、平和記念公園のガイドや海外に向けたオンラインでの平和学習プログラムを行っています。
桃子さんはハワイが好きで、大学時代に留学し、一昨年にもファームステイしていました。また、昨年は地球を一周するクルーズ船の旅「PEACE BOAT」に乗船されました。
2度のハワイと船旅を通じ、どんな経験をしたか、人生で大切なものは何か、インタビューしてきました。
地球一周の船旅で感じたこと
ーー昨年の8月から12月にかけて、PEACE BOATに乗船されたと伺いました。なぜ乗ろうと思ったか教えてください。
まだ見たことがない世界を見たくて乗船しました。
私は昨年の春にハワイから帰ってきたばかりでしたが、再び長期で海外に行ってみたいと思っていました。その時期は語学留学やワーキングホリデーなどの情報収集をしていましたが、どの国に行って何をしたいかという願望が固まりませんでした。悩んでいる間にふと、高校生の頃から憧れていたPEACE BOATのことを思い出し、「挑戦するなら今だ!」と思って、乗ることにしました。
ーーPEACE BOATの寄港地で、最も印象に残った都市はどこでしょうか?
一番印象に残った場所はアイスランド。なぜなら、環境に関心が高く、生活水準の高い国だと感じたからです。
アイスランドは発電に100%自然エネルギーを使った国。中でも、火山が多いから地熱発電が盛んで、発電量の30%を占めていると現地のガイドさんから聞きました。化石燃料を一切使わず、全部再生可能エネルギーや自然エネルギーで賄っていて環境への関心がとても高い国だと思いましたね。
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あと、賑わっている通りでは、マクドナルドのような世界的に有名なチェーン店のお店がなく、代わりに個人経営のカフェや雑貨屋さんが多かったです。売られている商品も大量生産でどこでも売っている商品がなく、一つ一つのもののクオリティが高い印象を受けましたね。ただ、その分、物価は高くて、コーヒー一杯の値段がものすごく高かったですけどね。
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だから今、私がもっと知りたいと注目している国はアイスランドです。
ーーPEACE BOATに乗船して得られた旅の魅力はなんですか?
地球は丸く、世界は海を越えて本当に繋がっている、という感覚を肌で感じられました。
ある国に着いた船がだんだん離れて、陸が見えなくなり海だけの景色になる。また数日後に次の大陸が少しずつ見えてくる。PEACE BOATの乗船中はこの繰り返しで、水平線の景色を眺められました。
また、当たり前という概念がなくなりました。
PEACE BOATに乗って普段の自分が生きている世界は狭くて、物事に良い悪いはなく、自分が当たり前だと思っていることが全然当たり前じゃないことに気づきました。
たくさんの国の違いを認識して受け入れ、少し寛容になれた気がします。
旅や海外に目を向けた原体験
ーーなぜ旅や海外に興味をもったのでしょうか?
幼少期から国際交流が好きな家庭で育ちました。母が留学のコーディネートをしていたので、中国やアメリカなどの留学生がホームステイしにきていました。知らず知らずのうちに、言葉や文化が異なる人たちと仲良くなる喜びを体験していたんだと思います。因みに母も私が小学生のときに仕事で、実際に海外にホームステイしに行き、次の年には、ホームステイ先のホストファミリーの学生が日本に来たりしたこともありました。
また、小学生のときに海外の子どもたちと文通をして、日本にいながらにして海外と繋がる機会もありました。
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ーー桃子さんが初めて海外に行ったのはいつですか?
初めての海外は中学2年生でカナダにホームステイしたときです。
カナダ中部マニトバ州ののどかな田舎町で1ヶ月ホームステイしました。
英語がカナダの人に通じず、悔しい思いをしたこともありましたが、英語が通じたときは何よりも嬉しく、英語でコミュニケーション取ることの面白さを知りました。ホストファミリーとも仲良くでき、国が違っても繋がりを深められたことが純粋に嬉しかったです。
カナダへのホームステイはこの先の人生を生きていく上ですごく自信になりました。
人生を変えたハワイ留学
ーー大学時代のハワイ留学についてお聞きします。なぜハワイに行こうと思ったのですか?
ハワイに初めて興味を持ったきっかけは、高校生のときに、パールハーバー(真珠湾攻撃)の頃のハワイを描いたミュージカルを見たことです。
もともと、ハワイについては、いわゆるリゾート地というイメージで、あまり興味を持っていなかったです。しかし、そのミュージカルは、それまで共に暮らしていたハワイアン、アメリカ人、そして当時大きな割合を占めていた日系人が、パールハーバーを発端に人種の違いで分断されてゆく姿が描かれていました。
その舞台を観て、生きていることの素晴らしさ、どの時代にどこに生まれても人々が幸せに生きられることの大切さを感じ、そして戦争や平和についても深く考えるようになりました。
また、ハワイの歴史や現代におけるハワイの社会をもっと知りたいと思い、ハワイ大学への留学を志すようになりましたね。
そのため、ハワイ大学と提携している日本の大学に行きたいと思い、京都にある大学の国際学部に進学しました。
ーーハワイの生活で印象に残った出来事は何でしょうか?
学校生活では、いい意味で日本との違いを感じることができました。
例えば、大学に学びに来る人の多様性。日本の大学は高校を卒業して間もない人々が学ぶ場所だけど自分の親世代やもっと上の世代の学生も同じ教室で学んでいたんですよ。学びたいときに学ぶことができる環境を魅力に感じました。
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一方で、社会の中では人種による貧富の差を感じる場面もありました。就ける職業にも少なからず人種の違いが関係していると感じました。さらに、ホームレスの中ではネイティブハワイアンやミクロネシアからの移民が多いのも現状です。
太平洋戦争から70年以上が経った今でも人種の違いによって人々が分断される現状を目の当たりにして、多様な人々が共生できる社会とは何か考えさせられました。
また、ハワイの文化や自然にも興味があったので、週末などは授業の一環でハワイの自然を肌で感じる活動に参加していました。例えば、オーガニックファームに行って、地元の皆さんと草取りや畑の手入れをしつつ、ハワイの言葉や文化について教えてもらいました。
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さらに、人間と自然は深く結びついているからこそ、私たちは自然を大切にする、というネイティブハワイアンの考え方に触れました。
例えば、植物が土のなかの暗やみから芽吹くように、人間もお母さんの暗い子宮から生まれる。人間は大地の恵みによって生かされ、死んだら土に還る。
人間も自然も繋がっているんだと教えてくれました。
ハワイから帰ったあと
ーーハワイで得たことが後々の人生に繋がったということはありますか?
はい、そうですね。
新卒でオーガニック食品などを扱うお店で働くことになったのですが、
就職の根底にあった理由も自然を大事にする考えに触れていたからです。
そこでは、3年ほど働いていました。
ーー新型コロナウイルスの影響でPEACE BOATの運航が止まった時期もありました。この時期に何をしていたのでしょうか?
この時期、海外へは行けませんでしたが、新しい活動をはじめていました。
PEACE BOATが主催する『おりづるプロジェクト』という活動です。広島と長崎の被爆者が被爆体験を海外の人々に向けて語る活動ですが、私は広島の原爆や平和のことを学びたかったし、英語が使えて海外に発信ができる点に惹かれました。スタッフに連絡し、ボランティアとして参加しました。
通訳や報告書作成をしながら、被爆体験に触れ、平和への思いを日々深めていきました。
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『おりづるプロジェクト』での経験を活かし、PEACE BOATの船内では、被爆者の証言ビデオの上映会をしたり、東アジアの若者による平和についてのパネルディスカッションをしたりしました。
パネルディスカッションの後には、聞いてくれた人から涙ながらに、心に響きました、というメッセージをもらい何か伝わるものがあったのかな、と嬉しく思いました。
ーー最後に今後、桃子さんがやってみたいことは何ですか?
2つあって、1つ目は英語力を磨くこと。いずれは通訳がしたいです。私自身英語で人と仲良くなれる体験をしてきたから、英語で人と人を繋ぐ架け橋になりたいです。
2つ目は自然に優しい暮らしをしていきたいです。PEACE BOATを通じ、自分たちの暮らしが世界のどこか遠い国の貧困や環境問題に決して無関係ではないことを改めて感じました。ハワイのオーガニックファームでは、生ごみは土に還して肥料にしていたし、自分たちが使う水は目の前の大地に流れてゆくので、自然を汚さないよう工夫していました。
そのような自然の循環を意識した暮らしをしたいです。
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編集後記
普段は大人しくて優しい桃子さん。
しかし、心に抱いている平和への思いや自然を大切にする価値観。
大切なものへの思いの強さを今回改めて実感しました。
やりたいことに正直に挑戦する姿勢を見習います!
貴重なお時間をいただきありがとうございました!