帳簿の世界史(推薦図書)
数年前に90歳でお亡くなりになったお客様。クライアント先の会長で、入院するまで毎月の打ち合わせでお会いしていました。80歳を超えても、会社の経理課とは別に、自身で現金出納帳や台帳を作成し、経理課の資料と照らしては、自社分析をしていました。
暗算も経営分析も、そしてゴルフも現役でした。仕事の話、高度経済成長期の話、戦争の話など、お孫さんよりも年下の私に対し「先生!」と常に謙虚に気さくにお話してくださりました。
その会長がよく私に話してくれたこと。
先生、何事もルーツを知る。物事の始まりから見ることが大切ですよ。
ということ。
なぜこのようになったのか、その趣旨、本意、経緯はなんだったのか。それを理解している人間は深みがありますよ。
20代の頃、よく感じたこと。自分自身の「軽さ」と「浅さ」。経営分析しても、授業しても、その時は満足しますが、後々振り返ると、「浅さ」にハッとする経験。結局、会長の言葉にあるように、リアルタイムの情報を身に着けたり、将来の情報をキャッチしても、歴史を知らなければ、本質的な理解が生まれないということでしょう。
この間、職場の新卒の子とAKBの話になりました。私は学生の頃、「会いたかった~」でAKBを知った人間。久々にYoutubeで「会いたかった」を見たら、「アキバアイドル代表!」と紹介されていました。特にファンではないですが、私のAKBのイメージは、秋葉原を拠点に頑張っていた女の子がどんどんメジャーになるサクセスストーリーで、その後巨大勢力になって、今に至るという感じです。アキバで健気に頑張っている少女達、というスタートが、オーディションで落選した女の子達がプロデュースされ、努力してメジャー化するというモーニング娘と同様に、応援したいポイントだったと思います。ただ、新卒の子はAKB=メジャーアイドル集団で、AKB=秋葉原とはならないようです。ルーツを話したら、びっくりしていました!
脱線しましたが、表題の件。
#帳簿の世界史 著:ジョイコブ・ソール 訳:村井章子, 文藝春秋 , 2015年
会計のルーツを知る書。特に公認会計士や会計士・税理士を目指している方にお勧めです。公認会計士のルーツがヨーロッパやアメリカの時代背景とともに紹介されている章があり、筆者が描く「公認会計士像」や、現在の監査法人、公認会計士へ求めるものについても記されています。
私も税理士を志した時、まず最初に疑問符だったことが公認会計士と税理士の違いでした。試験内容は確かに違うのだけど、先輩方からはコンサル的なとこは似ているといわれたり・・。会計士がコンサル?監査ではないの?等と思っていました。
特に監査法人の本来あるべき立ち位置は「会計の番人」だったはず、という点を筆者は強調しています。
各時代の、歴史的出来事とそれに影響を受けたり、影響を与えた「会計」や「会計思考(思想)」が記されています。本編は約350頁で、ローマ帝国の時代からリーマンショックまで広範な内容となっています。前半はそもそもの世界史を知らないと大変かもしれません。逆に中盤以降は近代史なので、世界史が苦手でも読みやすいです(私も初めて読んだときは前半がなかなか進まず・・中盤からサクサク読めました)。
筆者は終章でこのように記しています。
本書でたどってきた数々の例から何か学べることがあるとすれば、会計が文化の中に組み込まれていた社会は繁栄する、という事である。(334頁)
かつて社会は、財政に携わる人に対し、会計を社会や文化の一部とみなすよう求め、帳簿に並ぶ無味乾燥な数字からでさえ、宗教的・文学的意味を読み取っていた。いつか必ず来る清算の日を恐れずに迎えるためには、こうした文化的な高い意識と意志こそ取り戻すべきである。(336頁)
過去、会計を重視し、そこに思想を見出している頃は、繁栄しているが、帳簿・会計を軽視し、怠惰していくと腐敗、闇の部分が社会をダメにする。
【 私見として 】
AIが発達して、会計処理がコンピュータ化されたとしても、会計の深いところにはヒトがいなければいけない。文化はヒトがいることで成り立つからです。
こういったルーツに触れる、歴史に触れる書を読むと、自分自身が今、どう仕事をするか、そしてバトンを次世代にどう渡すか。そんなことも考えさせられます。
細かい書評は敢えて、ネタバレしないように留めたので、興味のあるひとはぜひ読んでみてください。
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