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今はもうどこにもないサイゼリヤの話。

20年近く前、私が東京開催の二次創作の同人誌即売会に定期的に出ていた頃の話である。

イベント後、仲間内で夜に打ち上げをするわけだが、大抵の飲み屋は開店の午後6時くらいまで待たなければならない。

しかしイベント終了時はちょうど3時過ぎくらいか。多少片付けに手間取ったとしても、飲み屋の開店時間までには少々余裕があるのだ。

そういう時に「繋ぎ」として機能する場。それこそがサイゼリヤであった。

イベント参加となれば朝ご飯を食べずにギリギリまでコピーなどして修羅場っていたという者もいれば、昼ご飯を食べる余裕がないほどの忙しさだった者もいる。ちょうどおやつの時間でもある。

そして何より、同好の趣味の皆様と心おもむくままに萌え語りなどして、知らず知らずのうちに疲弊しているため、心は元気でも体は一服を求めているのである。

そこにサイゼリヤ、これがかなり「最適」なのであった。

何より、色んなメニューがある。普通のレストランより、気持ちオシャレな気がする。食事だけでなく飲み物も好きなだけ楽しめる。食事をしながらも萌え語りを継続できる。

そして、コスパもいい。空きっ腹で飲み屋に行くと高くつくが、サイゼリヤを挟むことで自然と出費までもが抑えられるのだ。

そして私は福岡からはるばる東京に参戦しているわけで、次の日の予定によっては前乗り・日帰り・次の日帰宅とバラバラである。

帰らなきゃいけないから、さすがに夜の飲み会には参加できないや……。残念だな……。

そんな時でも「サイゼリヤ会」まではギリギリいられることもあるのだ。何という救いか。

そしてその頃、まだ福岡にはサイゼリヤは一店舗もなかった。2010年3月のトリアス久山店で九州での一号店、つまりそれまでは東京でしか楽しめない、そこはそういうとても貴重な場所でもあったのだ。

東京でイベントを楽しみ、サイゼリヤで食べ、飲み、ワイワイと萌え語りを楽しみ、その興奮を胸に帰路に着く。

これは当時の私にとってはとても代えがたい、楽しい得難い体験だったのだ。

そして、それから約20年近くが経過した。

私は二次創作から遠ざかり、コロナで東京からも遠ざかり、福岡には現在、いくつものサイゼリヤが存在している。望めば好きなタイミングに行ける状態である。

しかし当時、楽しく萌え語りしたジャンル友だちとの繋がりは既にない。私が二次創作から遠ざかっていたこともあるが、元々「ジャンルの切れ目は縁の切れ目」という世界でもある。

彼女たちは今でも二次創作の場にいて、変わらず二次創作萌え語りをしているだろうか。それとも、生活環境の変化で違う場所で頑張っていらっしゃるのだろうか。足跡を辿るすべもなく、何も分からない。せめてそれぞれの環境で楽しく過ごされているといいな、と思っている。

そして最近、サイゼリヤのメニューが変わったという。あの頃楽しんだメニューも、きっといくつかは消えてしまったのだろう。

東京自体も、私が訪れないうちに色々と変わってしまったかもしれない。私が東京で行っていたサイゼリヤの店舗も、さすがに店自体が残っていたとしても、改装はされて見た目は変わってしまっているに違いない。

現在、福岡に、自宅から行ける距離に、私が行けるサイゼリヤは何店舗もある。

しかし「あの頃、あの東京で、あのメンバーと楽しんだサイゼリヤ」は、今やこの世のどこにも存在していないし、もう二度と体験できないのであった。

我があの頃のサイゼリヤよ、永遠なれ。



(終わり)


☆☆☆☆☆

なんか、さも「サイゼリヤ文学」らしいものを書いてみたかったのでした。

ジャンルとしてはノンフィクション小説かな…。エッセイになるのかもしれない。

この作品は福島太郎様主催の企画「第一回サイゼ文学賞」参加作品です。楽しそうだったので思い出供養的な意味も込めて参加させて頂きました!

福島様、おかげさまで誰にも伝えられることなくただ消えていくだけだった遠い思い出の記録をすることができました。そのきっかけを、ありがとうございました!

#サイゼ文学賞


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鰯野つみれ
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