家に女は一人でいい。
「気持ち悪い」「臭い」
母に言われて記憶に残る言葉がある。
それは、十代の色気付いてきたわたしへ投げられた言葉。
乱暴に投げられたその言葉に返答できたことは一度もない。
全身が硬直するから。
反撃の選択肢は最初からなかった。
中学校になって下着が必要になった時、わたしは母に言うことができなくて自分のお小遣いで下着を買った。
それは女性らしい可愛い下着が欲しかったからではなくて、部活や体育の授業で透けないようにするための下着だった。
母からそういった類の施しは一切受けたことがなかった。
それなのに、生理が来た日は母はすぐに気づいて、その日のうちに父が赤飯を買ってきた。もちろん食べるわけがなかった。泣きたくなるくらいにすべてが嫌で嫌で仕方なかった。
生理用品も自分で買った。
どうせ自分でやるしかないなら父子家庭の方がマシだった。
二人が離婚したら、父の元へ残ると妄想していたけどそんなことにはならなかった。
生理が来たけどまだ到底一人では生きていけるとは思えなかった。
言語にならない深い深い意識のところで、母もわたしも、わたしが大人への道を歩みだすことを嬉しいことだとは思えなかったのだと思う。