見出し画像

後少しの辛抱。

母からの言葉の暴力は日常的だったけれど、父は母伝いに聞いたことを、事務的にたまに口出す程度だった。その暴力的な母が叫びながら父を止めに入った時があった。

秘密で外泊して朝帰りが見つかった朝、父はわたしに馬乗りになってわたしをボコボコに殴った。しばらく外出禁止と言われたけれど、到底外を出歩けるほどの普通の顔ではなかった。


その時の映像は今でも色鮮やかに情景の詳細を映し出すけれど、なぜか痛みの記憶だけが綺麗さっぱりなくて思い出せない。

床に倒れるまでの間に視界に映った家具たちの情景や、わたしが逃げ出せないように押さえつけた父のその腕の力加減、初めて見る角度からの天井、その時着ていた洋服、父のも。
それから、部屋のドアの上あたりから、殴られている自分を見ているもう一つのカメラビジョン。

高校卒業まであと数ヶ月。

どうしてわたしはこの家の中で一人、悪い子になっているんだろう。
わたしの友人たちを想うこの気持ちはなんなんだろう。心の底から笑い合えたり、信じあえたり、共感したり、感動したり、愛おしく思えたり、この感覚はなんなのだろう?いい子ってなんだろう?

暴力はわかりやすい。
傷がちゃんと治癒していくのが確認できるから。
痛みの記憶も残らない。

わたしは未だに、あの時の世界から救い出してくれる誰かを探しているのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?