あなたが悲しいと、わたしも悲しい。
「うちにはそんなお金がありません」
幾度となく耳にする母の口癖。
「誰のお金で学校にいけると思っているの」
「高いんだよ、学費」
「必要ないでしょう。金のかかる子ね」
わたしがガラス戸を蹴破って割った時のガラス代。
生えてこなかった歯の隙間を詰める歯の矯正代。
水泳の授業の後になくなった水着代。
受験には役立たなかった塾の費用。
その明細書をわざとらしくとってあることをわたしは知っている。
うちにお金がないのは、わたしがいるからかもしれない。
「もう死ぬんだから、あとは頼みますよ」
幾度となく耳にする母の口癖。
そう言いながら母はベットに倒れこんで本当に死んだように寝ていた。
家の中はいつもカーテンが閉められていて、冷んやりしていた。
母は小さな時からの夢を叶え、社会的にも立派な仕事をしているのに、
いつも疲れて怒っていて、全然幸せそうに見えなかった。
母が幸せじゃないのは、わたしがいるかもしれない。
母の怒りの矛先は、兄でもなく弟でもなく、いつもわたしだった。
うちにはお金がなかったのではなくて、母がわたしにお金を使いたくなかったのだと思う。わたしはずっと世の中の平和ルールをどこかで信じ込もうとしていた。
言葉の虐待。
それでも、お母さん
あなたが悲しいと、わたしも悲しい。