ハイペリオンサーガ再読記:第1回「ハイペリオン上巻 pp.09~39」早川書房
はじめに
ハイペリオンサーガは、米国の作家ダン・シモンズが書いたSF小説です。
「ハイペリオン 上巻」「ハイペリオン 下巻」「ハイペリオンの没落 上巻」「ハイペリオンの没落 下巻」「エンディミオン 上巻」「エンディミオン 下巻」「エンディミオンの覚醒 上巻」「エンディミオンの覚醒 下巻」の8作があります。以下、リンクです。
ここではSF作家志望の私が読んだことのあるSF小説の中で、一番スゴイと思うこのハイペリオンサーガを再読しながら、ハイペリオンサーガはなぜ、なにが、どのようにスゴイのか、じっくり分析してみる、「再読記」です。このスゴイ作品シリーズを再読して、分析して、自分なりにまとめてみることで、ダン・シモンズ氏の爪の垢を煎じて飲み、すでに「0作品」を書いたことがあるSF作家志望の私の、芸の肥やしにしたいことと、読んだことがない皆さんや、読んだことがあってよく知っている皆さんたちと、ハイペリオンサーガのスゴさを分かち合いたいことが、「ハイペリオンサーガ再読記」の狙いです。
私が読み進めた分のポイントをつづっていきます。以下、今回のまとめです(次回からはあらすじが付きます)。
ポイントと分析
<描写>
>ビジュアルやサウンドの描写が突き抜けている。色味、輝き、声、環境音のバリエーションが実に多彩。重厚なオーケストラやオペラのよう。ダイナミック。サービス満載。非現実的な美しさ。
>多様なビジュアルやサウンドが一場面で重層的に重なっている。徹底的に重ねてくる。あまりに幻想的な場面が頻繁に出てくる。
>多彩な屋内外のインフラ描写。
>食事の詳細な描写で食欲や嗅覚も刺激。
>服の描写は微細に。いろんな物には、その名前がある。
>敵と味方陣営の設定が明らかになる。
>容姿の描写には手を抜かない。声も重要。
>兵器の名前や描写も詳細。
<展開>
>静と動の場面わけが巧み。矢継ぎ早に静と動が入れ替わる。揺れ動き、振幅の早さや量が実に多い。とにかく読者を揺さぶる。とことん盛り上げる。対比がすごい。ダイナミックな描写のあと、セリフや違う描写がはいって我に返り、揺り戻される。
>展開が映画的。映画のコマが進んでいくようなイメージ。劇的で耽美的なふるまい。コマ割り。描写で緊迫感、安心感などを表現。緊張感がすごい。
>冒頭ですぐに最終目的地とラスボスが登場する。切迫した状況。是が非でも暴かなければならない秘密を知ることが目的。冒険のはじまり。ラスボス、シュライクの存在感の特別感。
>スリルとサスペンス。非常時に非常時が重なっている状況。最後のチャンス。重ね重ね特別な状況が重なった設定。次々の謎が置かれていく。軍事的緊張。ハラハラドキドキの予感。
<設定・仕掛け>
>七人の巡礼者、七人の侍へのオマージュ。キャラが立ってくる。七人の中には有名人が含まれているとの設定。選ばれた特別感が高まる。乗客は7人だけの特別感。それぞれの対比が明確でキャラが立っている。幅も奥行きもあるキャラ設定。それが謎になる。七人の会話劇で各々のキャラがさらにはっきりしてくる。
>七人の内の一人はスパイという設定。読者が誰がスパイか、常に気になるようなサスペンスと謎解きを用意。
>誰も時間の墓標から帰ってこないという謎。
>世界設定が詳細。政治・行政組織、星の名前、宗教、具体的な地名、設定が出てくる。身分の差も見え始める。
>空間的、時間的設定にも触れる。歴史についても心中の声で解説。
>現実の歴史と架空の歴史がミックス。未来の話だとわかる。クラシック音楽は実在の曲。ユダヤ、カトリックなど現実的な設定。すべてを架空の設定とせず、現実と接続することで、説明を省いたり読者との共通理解、合意がはじめから得られやすい。
>この世界独特の世界や技術設定、人命が次々と出てくる。世界の輪郭がどんどんはっきりしてくる。引き込まれる。SF世界設定が多ければ多いほど、SFファンのイマジネーションを刺激する。その世界での現実を費用なども用いてリアルにしている。エルグ、特異点、超高速通信。転移ゲート。薄膜壁。延齢処置の蒼み。
>他に4隻しかない聖樹船イグドラシルの特別感。
<その他>
>地の文は第三者の神の視点(登場人物の内面もわかる、カメラは自由)
>「領事」の心中の考えは、そのまま詳しい状況説明の代わり。
>サイズが圧倒的。9キロの層積雲。4千隻の船。宇宙都市。小惑星要塞。何十万の宇宙の蛮族。高さ2百メートルの裸子植物。1キロに及ぶ聖樹船。何千という光点。10 キロにわたってのびる青と墨色の噴射炎。6百メートルの落下のおそれ。太さ5メートルの枝。2千から5千人の収容能力。
今回のまとめ
プロローグと第1章に入ったとこまでですが、とにかく、描写、設定・仕掛け、展開がとことんすごい。中途半端さがないです。これでもかというほど、色も音もサイズもキャラ設定も特別感も、突き抜けてます。それが数文ごとに静と動が入れ替わるようなストーリー展開で、ぐらぐら揺さぶられます。映画のコマ割りを読んでいるようなスタイルだと思います。スリルもさることながら、謎、謎、謎のサスペンスで、読み進めることを強制するほどの引き込み方をします。七人のキャラも対比が明確で立っていて、そしてまた謎めいています。話の最終地点やそこにいる、謎めいたラスボスらしき存在も際立っています。SF設定もぶっ飛びすぎず、それでいて、日常レベルで架空の科学技術が溶け込んでいます。食事、服、インフラ、容姿、兵器などの描写もとても詳細です。現実と地続きの未来を世界設定とすることで、すっと世界に入っていけます。
「重層的で荘厳なオペラ付きオーケストラ」な印象です。あらためてすごい濃度です。ハイペリオン。
勉強になります!
次回へつづく。
(了)
以下、ネタバレ注意
再読記なので、私は話を最後まで知っています。初読の方は、以下は読まないことをオススメします。
>実は「領事」がスパイなので、物語冒頭から主人公が、心中の声で、読者をだましている仕掛け。心中を語る語り部が「嘘」をつく仕掛け。