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【寄稿第2弾】神田橋條治|「論」と「方法」

本記事は、精神科医・神田橋條治先生による「書き下ろし寄稿第2弾」です。前回の記事でもお伝えしましたが、弊社から近日発売されます『精神援助技術の基礎訓練』に先立ちまして、短くも、濃い論考をご寄稿いただきました。

『精神援助技術の基礎訓練』は、2006年に発売されました『「現場からの治療論」という物語』の姉妹編となる本です。
著者曰く、「ある意味で、処女作『精神科診断面接のコツ』を約40年ぶりにアップデートしたものともいえる」ということで、原点に立ち返った意欲的な1冊といえます。
処女作『精神科診断面接のコツ』から最新作『精神援助技術の基礎訓練』に至るまでの著者の境地が、本論考のなかに垣間見える気かもしれません。
ぜひ、お読みください!

「論」と「方法」

 ボクの処女出版は、1984年の「精神科診断面接のコツ」です。その第9章「『なぜ』という問い」の書き出しは、「この言葉に心惹かれるようになったのは、いつの頃からだろうか。ずっと以前、おそらく、物心ついた年ごろにまで遡ることができそうだ。」です。そして、「なぜ」というコトバを面接の問いの中で禁止する、技法について語っています。当時は自覚しませんでしたが、ボクの体質の根底に、「論」への羨望と忌避の、アンビバレンスがあったのでしょう。以来今日まで、ボクの探求は、「方法」に限られ、他者の「論」については、「なるほどねえ」と鑑賞する、にとどまってきました。恐らく、体質・気質の相性なのです。
 職業生活の終焉に当たり、このテーマについて連想してみることは、後進の方々が、ご自分の、気質・体質と、人生設計について、模索される際のヒントになりそうです。
 探索の方法として、色々な「活動」と「論」「方法」との相性、を味わうという、「方法」を採用します。ボクに相性の良い「方法」だからです。

 「関わる」:論も方法も、対象との関わりです。「論」では、対象自体も関わりも、自分とは切り離された輪郭を得たとき、こちらの充足感があります。「方法」では、対象の「ありよう」とこちらの「ありよう」とが、相関関係を持つように感じられ、「ともに」という味わいがあります。
 「認識・記述」:「論」の主機能ですから、輪郭のクッキリした、「対処像」を描けます。自身の「反応」も、別個の「論」として、蓄積されます。「方法」では、こちらの「感興・反応」の実感が濃く、対象への「推測」から、主観を抜きとれない把握感となります。「思い入れ」です。
 「自身の変化」:「論」では、自身に積みあがってくる、充足感があります。「整い」の安心感が生じます。遂には、「揺るぎない自己」の確立へ向かいます。「方法」では、「あれやこれや」の試行錯誤で、自身が動き回り、しばしば、崩壊と再建のプロセスを体験します。「患者は治らなくても治療者は治る」です。
 「ことば」:「論」の活動では、文字に馴染む「ことば」、が蓄積されます。それが、自身の精神構造を、揺るぎないものへと導きます。「理論体系」です。風貌は、「専門家」の雰囲気になります。「方法」では、「声と身振り」、に溶けあう「ことば」、が増え、「行き当たりばったり」、の在りようとなります。「諦め」「居直り」を経て、少し変わった「普通の人風」、になります。「デジタルかアナログか」と言ってもいいでしょう。
 「数字」:「論」の活動では、数字は、揺るぎない、デジタルの粋、の位置になり、論は数式の雰囲気を目指します。「方法」では、数字が打破すべき「束縛」、の味わいとなります。代わって、「気分」が頼りになる指標となります。
 「日常生活」:「論」の活動は、専門世界に封印される、「節度」が大切です。日常生活にまで波及して、家庭生活が不幸になる例もあります。芸術活動や他のいのちとの触れ合いは、文字通りの、「いのち」の「リ・クリエーション」です。「方法」の活動は、当人の心身に波及して、しばしば「社会通念」をはみ出した「自由人」を生みます。芸術活動や他のいのちとの触れ合いは、職業生活と、切れ目なく溶け合います。
 「相性」:最も大切なことは、どちらの活動が、自身と相性いいかです。被治療者にとってもそうですが、限られた時間の活動ですから、影響も限定的です。治療者自身にとってはは、治療活動は人生の主要部分ですから、「わがまま」に選択することが「自身のため」ひいては、「他者のため」です。

※本寄稿は、準備中の新刊に収録予定です。

神田橋條治先生による新刊が、近日発売されます!

Amazonでも予約注文可能です!


「精神援助技術の基礎訓練」カバー

【目次】 
まえがき
第一章 「援助関係」の構造変化
第二章 内省精神療法の構造
第三章 発達凸凹の登場
 ① 援助を必要とする人
 ② 援助する人
 ③ 共同実験研究の関係
第四章 学び
 ① 勉学
 ② 内なる歴史
 ③ 教える
第五章 治療のための基本仮説
 ① 「からだ」と「こころ」
 ② 「コトバ」
 ③ 分断された「いのち」の病理
 ④ 新たな図柄
第六章 治療の見通しのための病態分類
 ① 生来気質
 ② 保護環境との体験(愛着の障害)
 ③ 発達の凸凹
第七章 共有される、治療ハウツー
 ① 舌トントン、Оリングテスト
 ② 脳の邪気を認知する
 ③ 「からだ」に残る「苦労」の歴史
 ④ 現在の「からだ」の苦しみ
 ⑤ 話の中の「苦悩」の察知
 ⑥ 卒業
 ⑦ 「筆の気功」
 ⑧ 良いとこ探し
 ⑨ 巻き簾の気功
 ⑩ 片足ケンケン
 ⑪ バリアを作る
 ⑫ 「拒否」能力
 ⑬ 多面人格
 ⑭ HSPの開発と修練
 ⑮ 薬など
 ⑯ 「気持ちいい」環境を
 ⑰ 知識
第八章 援助の進め方
 ① 援助方法案内
 ② 商品展示
 ③ 遠い「目標」と近い「目標」と、「イマへの対処」
第九章 援助(治療)活動の見本
 ① ケース1 うつ病と誤診されていた、双極性障害の青年
 ② ケース2 発達障害の10歳の子
 ③ ケース3 愛着障害の女性
 ④ ケース4 成人の発達障害
 ⑤ ケース5 うつ病の中年男性
 ⑥ ケース6 アルコール依存症の男性
 ⑦ ケース7 統合失調症の学生
 ⑧ ケース8 高齢者
第十章 援助活動の基礎姿勢
 ① 物語と方法
 ② 従来の精神療法の基本姿勢
 ③ 新しい精神療法:物語から方法へ
 ④ 日常の援助活動:する側とされる側

 あとがき
 参考文献


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