医療機関の評価DX【これからの医療とDX #15】
今回は「医療機関における評価DX」をテーマに書きます。
評価DXとは
「人事評価の手続きや活動にデジタルを活用することで、より効率的に、より高い再現性を求める方法論」をここでは「評価DX」と呼ぶことにします。
人事評価は、組織に所属する従業員の業務遂行能力、成果、行動、態度などをみて基準に基づいて点数をつける行為およびそのプロセスです。
代表的なものとしては、目標管理制度(Management by Objectives; MBO)、ランク付け(レーティング)などがあります。例えば、期のはじめに自分の上司と今期目標をすり合わせて、期中にその進捗や行動について話し、期末にそれを評価し、ランク付けをつけて報酬に反映するなどがあります。
従来、人事評価制度の運用には多大な手間がかかっていました。人事評価シートを紙で書き、その紙を保存し、人事面談のたびに取り出すことが必要だったからです。人事評価の内容は、情報としても非常にセンシティブであり、保存・保管の方法にも注意が必要です。
また、その手間のわりに、評価の納得性向上や評価者へのフィードバックなどに利用しにくい面もあり、「なぜこんなに手間をかけてやっているのか」という従業員からの声が出てくることも少なくありません。
評価DXを導入することで、運用上の手間を減らしながら、育成や異動・昇進などのデータ基盤として利活用しやすくすることが可能です。
医療機関における人事評価制度の現状と課題
みなさんは実際にどのように人事評価をしていますか?
管理職になるときに評価方法に関するレクチャーを受けると思いますが、評価方法を理解しても、実際に自分の部下を評価するときには、理論と実践のギャップに戸惑ってしまうこともあるでしょう。人事評価においても「わかる」と「できる」には大きな壁があります。
さらには、制度設計として、評価基準があいまいであったり、評価者に対するサポートやフィードバックが十分でなかったりすると、評価者に大きく左右される形になります。業務内容を重視する人、その人の”頑張り”を重視する人、顔色をみて評価をつける人など、部署ごとの変動がみられる場合もあります。評価者としても、その状況で評価の重圧を感じることで、横並びの評価をつけたり、評価自体を遠ざけたりしてしまうこともあります。
評価はスタッフのモチベーションやパフォーマンスにも直結する要素です。前述のような状況では、評価に対する信頼性や納得性が下がるため、モチベーションが下がり、それぞれのパフォーマンスにも影響を与えます。
人事評価の仕組みがうまくいっていないときは、多くの場合、組織全体の生産性が低下しています。その対応として、例えば、評価者研修のような局所的な改善策を講じても、期待した結果につながりません。
人事評価に対してテコ入れをする場合は、一旦、仕組み全体をみることがいいでしょう。具体的には、以下の点を確認しましょう。
組織でどのような人(ポジション、職種、能力水準など)、どのようなこと(業績、行動、スキル等)を評価したいですか?
人事評価制度における評価項目と評価基準は明示していますか?
評価項目と評価基準は「評価したいこと」と合っていますか?
評価シートは評価基準に基づいて実際に評価されていますか?
評価者は評価項目と評価基準を十分に理解していますか?
評価者の訓練やサポートにはどのようなものがありますか?
被評価者へのフィードバックの頻度は適切ですか?
評価DXによる変革
評価DXを取り入れることで、評価プロセスの効率化を進めながら、評価データ・人事データを活用しやすくすることができます。
ただし、人事システムを導入するだけでうまくいくわけではありません。まずは、人事評価制度や実際の運用状況、従来のシステム設計を踏まえて、改善すべき部分はどこか、どのような問題が生じているかを明らかにします。それらの課題に基づいて、導入目的を確認しましょう。
導入目的を決めた後に、人事システムで解決すること、制度設計や運用で解決すること、解決しないことを整理し、具体的な運用とシステムを設計します。人事評価制度を根本から見直すことはまれですので、今回着手できる範囲で設計していくことになります。
このとき、制度設計とシステム設計が一致させることが、経営的な価値を高めます。評価手続きが効率的になり、個々の従業員の努力が正当に評価できるようになり、組織全体の目標達成への動機づけに寄与するのです。
評価DXの意味の一つとして、評価に関する情報を一元管理できるようになることがあります。これにより、配置や昇進・昇格を検討する際の資料を一覧で確認できるようになります。
今回は評価DXについて解説しました。人事評価にデジタルを活用することで、運用上の手間を減らすだけでなく、労働生産性の向上や人的資本経営を促進することもできます。また、システム導入やDXプロジェクトを契機として、人事評価の仕組みがうまく機能しているかを診断し、組織を強化していくことも可能です。
組織と従業員の双方がともに成長するためにも、評価DXの導入は重要な一歩になるでしょう。
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