文化人物録48(水谷彰良)
水谷彰良(日本ロッシーニ協会会長・音楽研究家・音楽評論家、2018年)
→在野の音楽研究家にして、日本ロッシーニ協会の会長を務める。特にイタリアの音楽やオペラに精通し、特にロッシーニについては日本国内でも屈指の知識や研究実績がある。特に太った美食家のイメージが強いロッシーニについては、本業である音楽の素晴らしさ、奥深さを再評価して伝えたいと意気込んでいる。僕も何度かお会いしてお話ししたが、音楽の研究にすべてを捧げて邁進する姿に感銘を受けた。人柄も非常によく、音楽や作曲家が主役とばかりに、自身が前に出てくることは少ない。またお話ししたい研究者の1人である。
*ロッシーニについて
・ロッシーニは美食家のイメージが強すぎるんです。オペラ作曲家としては18歳からの20年間で39作も書いている。年に2~3作書いていると。ドニゼッティは50年間で70作書いたのですが、ロッシーニは20年間。本当はあと4作オペラを書く予定だったが、引退を余儀なくされた。ウイリアムテルなんかは19世紀のオペラにすごい影響を与えています。引退後は作曲はやらないと言っていたが頼まれるとやっていて、小品を150~160曲くらい作っている。オペラは37歳まででやめると言ってましたが、それでも76歳までの半世紀中、人気は衰えませんでした。
・ロッシーニの音楽面での後半生はあまり知られてませんが、ワーグナーがパリに来た時にロッシーニを表敬訪問し、ビゼーやサンサーンスの音楽にも協力している。当時フランス国内の中でもトップクラスの文化人だったと言えます。バルザックやドラクロワなんかもロッシーニに会いに来ていたようです。現代でいうとビートルズのような人気ぶりでした。彼は写真も大好きで、彼の写真や肖像画も売れた。
・ロッシーニの時代は歌中心のベルカントオペラでしたが、その後ヴェルディやワーグナーなどの時代になる。物語が中心のオペラですね。こうした時代の変化や近代文明への批判的な曲にすることなどもあってか、ロッシーニは日本人にはなかなか理解されないかもしれない。21世紀になると、ロッシーニはようやく再評価がされるようになってきた。
・ロッシーニの曲を歌う歌手の傾向も変わってきている。ロッシーニの音楽は歌手の表現力を最高に引き出すために書かれた曲芸的な音楽だという人もいた。しかし、マリアカラスが歌うことによってロッシーニの時代が到来し、ディエゴフローレスやチェチーリアバルトリなどが登場し、ロッシーニのバリエーションが出てきた。ただドラマチックに歌うのが主流になり、ベルカントの技術はどんどん失われていった。
・ロッシーニのオペラの特徴として、必ずしも歌詞と音楽が一致していないということが挙げられる。役柄は恐ろしいのに音楽は楽しげだったりばかばかしかったりする。でも完璧に演奏すると極めて価値が高い。