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文化人物録70(二階堂和美)

70二階堂和美(シンガーソングライター、僧侶)

→1974年広島県大竹市生まれ。実家は浄土真宗本願寺派のお寺で自身も僧侶。1990年ガンズ&ローゼズのコピーバンドでボーカル。1995年、山口大学在学中に5人バンド、ひなげしでボーカル。1997年、ギターを弾きながら歌うというスタイルでソロ活動を始め、1998
年山口大学大学院修了後に上京。1999年1stアルバム『にかたま』(ウチダレコード)リリース。2004年東京から広島の実家に居を移す。代表作は2011年発表のアルバム『にじみ』。2013年公開のスタジオジブリ映画『かぐや姫の物語』では主題歌「いのちの記憶」を作詞・作曲・歌唱。2021年、NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」5月の「こんげつの歌」で『ぎゅーっ はかせ』の作詞を担当。著書に『負うて抱えて』(2019年) など。
僕はまさに二階堂さんが注目された高畑勲監督のアニメ映画「かぐや姫の物語」の時、広島でお話ししたことがある。少し話しただけで、本当に音楽に対して純粋で、自然や平和を愛する方だなと直観した。それはご自身が僧侶であることと深く結びついているし、宮崎駿さんや高畑勲さんが長年形成してきたジブリの世界観とも合致する。

*アニメ映画『かぐや姫の物語』や主題歌「いのちの記憶」について(2013年)

・高畑さんにはアルバム「にじみ」を聴いていただいたようで、主題歌を歌ってほしいと連絡がありました。まずは「にじみ」の話をして、曲の解説などをしました。その後にかぐや姫の話になったのですが、高畑さんにはそのとき、「二階堂さんの歌い方はストレートに入ってくる」と言っていただきました。

・「めざめの歌」の歌詞「この世のすべてはどうにもならない」にも共感したということでした。この曲はこの世のやりきれなさを受け入れてとう前向きに生きていくことを歌っているのですが、「こう言う歌は世の中でもなかなか見あたらない。二階堂さんの曲はまれだ」とおっしゃっていました。いわゆる「笑い飛ばす歌」ってありますよね。私の場合は恋愛の曲でもそういう点を感じ取れるようです。高畑監督の年齢からしてもそこが響いたのかもしれません。

・今はこのような曲を歌ってますが、それまでの十数年間は繰り返し歌について考え、実験を繰り返してきました。わざわざ歌を発表する意味はあるのか、何を求められているのかを模索しているとき、実家に帰るタイミングがありました。実家での僧侶の兼業、つまり家族と一緒に暮らすということです。家族と暮らす中での面倒さ、高齢の家族が老いていく現実もあります。普通に暮らす人と人や寺に接する地域の方との接触の中で、音楽はどうあるべきかを考えました。東京にいてライブイベントなどでセッションするのとは全く違います。音楽にはどういう存在意義があるのか考え、音楽に向き合う姿勢を見直しました。、

・寺で暮らしながら暮らしていると、絞り出すエネルギーが狭く濃くなっていきました。音楽も演歌のフレーズを利用して歌詞は現代的にしたりしました。私は東京に出る前から、いずれは僧侶の道に行くと思っていました。実家をいずれ継ぐのだから、数年間は好きなことをやらせてほしいと言っていました。ただ親から直接継いでほしいと言われたことはないので、もしかすると勝手にそう思い込んでいただけかもしれません。

・22歳の時に得度して僧侶になりました。私は音楽の他に美術も勉強していたのですが、仏教は美術にも音楽にも関係します。芸術から仏教へのリスペクトが生まれたのです。寺に生まれたことにも因縁を感じていました。その後2007年に教員免許も取得して自分の進むべき道が揺らいでいた頃、人を当てにしても当てにならないなと思うことが続きました。そんなとき、つらくても悲しくても乗り越えていくという仏教の教えに気づきました。本当は音楽がやりたい、だから寺のことだけをやるのでなく両立できるのではないかと思い始めたのです、

・仏教はと音楽には共通点があります。お経と歌は非常に近いのです。私を通じてお客さんに伝える。いわば伝道者です。「めざめの歌」では、仏教と音楽を両立し始めてからの思いを初めて歌詞にしました。仏教用語は使わず、日常の言葉で歌にする。限定的な用語ではなく、一般の人にさりげなく聴いてもらえる歌にしました。元々仏教というのはもっと自由なんですよ。苦しみ、心の迷いを何とかしようというのが仏教です。音楽がどういう役割を果たせるのか。ですので、私の音楽には仏教の教えそのものとは言わないまでも、仏教の意識や宗教観が自然とにじんでいると思います。

・「いのちの記憶」は東日本大震災で津波に遭った人の考えや気持ちも考えて作りました。今回は本当によく考えたし、高畑監督もそこを期待していたと思います。ジブリ関係の音楽では子供の頃、アルプスの少女ハイジや赤毛のアンなどの音楽を聴いていました。高畑監督が映画で選ぶ曲は日常の悲しみや憂いが込められていると思います。

・生死を考えるという点も高畑監督と波長が合った点でした。竹取物語の原典を読むと、月に帰るのは死を意識したからだと思いました。色んな解釈があると思いますが、生と死、限りある命について伝えようとしているだろうと。こう言う映画の主題歌の話をいただけたのは、私にとっての因縁だと感じています。

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