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【葬送のフリーレン】フリーレンとシンクロする:昔読んだ小説を再読 鷺沢萠『ビューティフル・ネーム』

漫画「葬送のフリーレン」では、過去に行ったことをもう一度行うことが度々あります。ただ、過去のものとは何かが異なっており、それを「過去の押韻」と呼んでいます。

本記事では、現実の世界で「過去の押韻」を経験したことを紹介し、その経験が葬送のフリーレンのエピソードとどのようにシンクロしているかを考察したいと思います。

テーマ全体の説明については、以下の記事を御一読ください。

本記事では、昔に読んだ鷺沢萠『ビューティフル・ネーム』の中の「眼鏡越しの空」を、今の私が再読した経験を紹介します。

以下で引用する葬送のフリーレンのエピソードは、単行本全4巻までの内容を含むので、ネタバレを避けたい方は読むのを止めて下さい。

鷺沢萠『ビューティフル・ネーム』とは

あまり内容には踏み込みませんが、この小説は国と名前をめぐって編まれた短編集で、その中でも「眼鏡越しの空」は、通名を使っていた時期がある在日三世の女性が主人公の物語です。

過去に読んだ時の状況

この小説を初めて読んだのは私が高校生の時で、通学の電車の中で読んでいたのですが、途中で涙が出てきてしまいました。

その後周りを見てちょっと恥ずかしくなったことを、今でもはっきり憶えています。

ちなみに涙が出てきたのは、図書館でのエピソードのところです。

再読した時の率直な感想

自分でも驚いたのですが、昔読んだ時とまったく同じ箇所で涙が出てきました。今度は自宅で読んだので、涙が出てきてもセーフでした(笑)

また、物語の構成が葬送のフリーレンと通じるものがあり、なぜ私がフリーレンを好きになったのか、に繋がる原体験を思い出したように感じました。

葬送のフリーレンが好きな方は、たぶんビューティフル・ネームも好きだと思います。たぶん。

再読した後に考えたこと

この小説を再読してしばらく考えたことは、外国人嫌悪(Xenophobia)についてです。

高校生でその小説を読んでから現在に至るまで、日本以外にルーツを持つ友人とたくさん出会ってきました

一級建築士を目指す在日三世の方とも友人になり、深くは聞きませんでしたが、父親との考え方の違いでよく喧嘩していたと話していました。

他にも日本以外にルーツに持つ友人ともたくさん話してきましたが、総じて理性的で良い人ばかりでした。

一方、外国人に嫌悪感を示す人達も見てきました。

その人達は真剣に嫌悪の言葉を使っているというよりかは、仲間内でカジュアルに言っているように感じました。

彼らが直接、外国をルーツに持つ人達にその言葉を投げかけている所は経験していません。もしくは私が気づいていないだけかもしれませんが。

そういう嫌悪の言葉を聞く度に認識するのが、私はそういう考えにはならないということです。

それは実際に出会ってきた友人の影響が大きいと思っていました。

ただ今回この小説を読み返して気づいたのは、この小説を読んだという経験があったからこそ、外国人嫌悪に同調することはなかったのだろう、ということです。

この小説が、私の価値観のアンカーとなっていたことに気づき、今更ながら小説との出会いと鷺沢萠さんに感謝しました。


以下で引用する葬送のフリーレンのエピソードは、単行本全4巻までの内容を含むので、ネタバレを避けたい方は読むのを止めて下さい。

葬送のフリーレンとシンクロしたところ

対応する葬送のフリーレンのエピソード

この経験と共通点があるな、と思った葬送のフリーレンのエピソードは、フリーレンと断頭台のアウラとの会話のところです。

アウラは魔法によって他者を服従させ、意のままに操ることのできる魔族です。

その魔法を使って、不死の軍勢と呼ばれる、人間を服従させてつくった軍団を率いています。

フリーレンはアウラと対峙した際、不死の軍勢とも戦闘しましたが、激しい攻撃魔法を使いませんでした。

それに疑問をもったアウラをきっかけに、以下の会話が展開されます。

前に戦ったときは派手に吹き飛ばしていたじゃない。
後でヒンメルに怒られたんだよ。
なら、益々こんなことする必要ないでしょ?
どうして?
ヒンメルはもういないじゃない。

アウラ・フリーレン、第3巻19~20ページ

死者との約束を守るという、人間にとっては自然な感覚を、魔族であるアウラが理解していないことに対して、フリーレンは急激に冷めた感情を抱きます。

アウラの魔族的な言葉 第3巻20ページ

この価値観が決定的に違うことに気づいた時の、心が冷え切る感覚は、私だけでなく誰もが経験しているかなと思います。

フリーレンが人間の価値観を形成した経緯

この話のもう一つ面白いところは、フリーレンがエルフであることです。

この漫画では、エルフはどちらかと言うと人間に近い種族として描かれていますが、個人的に魔族とエルフは、ともすれば同じ価値観を持ってもおかしくないと思っています。

というのも、エルフと魔族は人間よりも遥かに寿命が長いという、種族的な特徴があり、どちらも同族同士で活動している分には、人間の死に対して特別な感情を抱きませんし、ましてや死んだ人間との約束を守ることが、大切だと考えることはないと思われます。

実際勇者一行と旅をしていた頃のフリーレンは、人間の想いに対して以下のような反応を示しており、勇者一行がフリーレンを魔法使いとして認めていたことが、死後に消えてしまうような感覚を持っていたことが示唆されます。

人間の想いが消えていく感覚を、フリーレンは持っていた 第4巻180ページ

ただその後、フリーレンは勇者一行との楽しい冒険を経験し、最後に勇者ヒンメルやハイターの死を経験することで、彼らがフリーレンに言った約束を守る大切さを実感しました。たとえ彼らが、寿命の短い人間であろうとも。

もしその経験がなければ、アウラが言った言葉に対して、それほど嫌悪感を抱くことはなかったかもしれません。

シンクロしたところまとめ

上記をまとめると、フリーレンは勇者一行の旅をきっかけとして形成した価値観をアンカーにして、自身と魔族との価値観の決定的な違いに気づくことができました。

これは、鷺沢萠『ビューティフル・ネーム』をきっかけとして形成した価値観をアンカーにして、自身と外国人嫌悪を示す人達との価値観の決定的な違いに気づくことができた、私の経験とシンクロするものがあります。

まとめ

多少強引な関連付けではありましたが、いかがでしたでしょうか?今後も私が経験した「過去の押韻」と、それが葬送のフリーレンとどのようにシンクロするかを、いくつか記事にしていく予定です。


長くなりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

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