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遠藤龍之介副会長・狐狸庵先生の息子だったのか
一時期、精神と宗教性の集中した文章に魅了され、作品を殆ど読むことになった。文章からは一貫して言葉の力でもある「緊張感」が読み取れた。ふと思い出した逸話がある。龍之介氏が物心ついた時期に、自宅近くの本屋に連れて行き、本屋の亭主に、「この子は私の息子だと紹介、息子の持っていく本代は全て家に請求してくれと伝えたという。成程、作家の息子への愛情が感じられる話だ。当時の本屋には、規模の違いこそあれ、文化的書物が溢れていた時代だ。「資本論」から「哲学史」、それに関する関連雑誌、世界文学全集、漫画文化も幅を利かせる時代になってきていた。図書館を与えられたような境遇にあった龍之介氏だが、果たして何を読んだのか、息子であっても別人格、何を読も読まないは自由だ。
本人は慶応大学仏文卒である。まんざら文学に興味が無かったという訳でもないだろう。当時はサルトル全盛時代で、江藤淳もいた、それなりに文学の香りに親しんだと思われるが、親父の本を真正面から読んでいたのか疑問に思う。言葉に真摯であることが最前提になる仕事についてはいるが、親父程にはその意味を理解していなかったのかも、幼稚園から大学まで、そしてフジテレビと世間知らずもよい環境を満喫していたということだろうが、人生後半に終始とんだ赤面醜態を晒すことになるなんて一ミリも考えたことが無かったろう。
『80年代、90年代、私どもは間違った万能感を持ってしまっていて、それで現在に至っているのかもしれない』。未だにこんな悠長なことを公衆の面前で述べる姿勢は、氏の人生を物語っている。