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BtoB SaaSにおける “宮原流” 新規事業開発プロセス - IVRy以外でも取り入れられる6つのステップ

こんにちは。株式会社IVRy(アイブリー)の宮原(@shinobu_m814です。

2023年8月に事業開発責任者(VP of BizDev)として入社し、対話型音声 AI  SaaS「IVRy」を軸とした事業開発案件の創出と実行に加えて、将来の理想像からバックキャスティングした際の全社課題を解決していく役割を担当しています。

入社の動機やこれまでの経験にご興味がある方は、入社エントリやその他の公開情報を読んでいただけると嬉しいです。

🌐 公開情報(抜粋)
宮原忍|STARTUP DB(スタートアップデータベース)
"SMB vs. EP" プロダクト特性の違いから考える「何をつくる?つくらない?」
急成⻑スタートアップで働くことで得られるもの / 株式会社IVRy(社内LT会)
リクルートやNRIデジタルとの成功事例に学ぶ、 IVRyのAI音声対話/音声解析ソリューションが 変革するコールセンターの未来 

今回はBtoB SaaSの領域において、IVRyの事業開発(BizDev)チームで当たり前に実践されている「新規事業開発プロセス」をテーマにブログを書きました。

これから新規事業開発に取り組もうとされている方や、私と同じように、社内で新規事業開発に取り組んでいる方の参考になれば幸いです。



新規事業開発プロセスの6つのステップ

大前提として、BtoB SaaSの新規事業開発では、顧客の課題やニーズを徹底的に深掘りしながら、価値あるプロダクトを段階的に検証し、実装していくことが必要となります。

ここからは、具体的なプロセスを6つのステップに分けてご紹介します。

1. 新規事業開発テーマにおいて、ターゲットセグメントを定義する

新規事業を成功させるための第一歩は、適切な「ターゲットセグメント」を設定することです。自社のプロダクトが「どの市場の顧客課題」に対して「どのような価値を提供するのか」を明確に絞り込みます。

ターゲットセグメントに関する資料の一例

ここで重要なのは「具体性」「納得感」です。事業開発担当者は、市場規模や成長性、潜在顧客数、競合他社の動向などを把握するために、市場データの収集、顧客インタビュー、競合分析といったエビデンスを集め、分かりやすく整理します。こうした情報をもとに、チーム全員が新規事業の目的や意義を深く理解し、共通認識を持つことが欠かせません。

初期段階で共通認識が形成されると、その後のプロセスで一貫性が生まれます。また、この共通認識は、不確実性の高い新規事業に挑む際の最大の武器である「ワンチーム感」を育む基盤にもなります。

💡 ワンポイント
・ターゲット選定に際しては、あえて狭めに設定するほうが検証もしやすい
・マクロとミクロの両面から根拠を示すと、社内外の共感を得やすい

2. MVPとしてコンセプチュアルな資料を作成する

ターゲットセグメントが定まったら、その市場で「実現したい世界観」を資料としてまとめます。

この資料では、MVP(Minimum Viable Product:顧客に価値を提供できる最小限のプロダクト)の概念に基づき、事業アイデアのコア要素をコンセプトベースで整理します。資料作成の際に押さえておきたいポイントは、以下の通りです。

  • AsIs(現状)とToBe(理想像)を対比

    • 現状と理想のギャップ(GAP)を明確にし、それをどのように埋めるかを視覚的に示す

    • 顧客が抱える具体的な課題やニーズ、もしくは不満を的確に捉え、アイデアの妥当性を強調する

  • 実現可能性を考慮しつつ、枠にとらわれない発想

    • 現時点でのプロダクトの機能性に縛られず、自由な発想でアイデアを広げる

    • 同時に、完全に非現実的な案とならないよう、実現性を考慮したバランス感覚を持つ

このコンセプチュアルな資料は、単なるアイデアの説明にとどまらず、顧客との初期接点で自社がその市場で「実現したい世界観」を共有するための「触媒」としての役割を果たします。

コンセプチュアルな資料の一例

💡 ワンポイント
・現時点では「絵に描いた餅」でもOK。まずは顧客との会話のきっかけをつくる
・コンセプチュアルな資料の段階でフィードバックをもらうことで、価値を生まないプロダクト開発を防ぐことができる
・資料は一度作成して終わりではなく、顧客からの反応やフィードバックをもとに反復的に進化させていく

3. センターピンの顧客をリストアップし、アプローチ方法を検討する

定めたターゲットセグメントの中から、特に影響力の大きい「センターピンとなる顧客」をリストアップします。ここで言うセンターピンとは、以下の特性を持つ顧客を指します。

  • 業界をリードしている企業や主要プレイヤー

    • 高い市場シェアや知名度、ブランド力を持ち、導入実績が他社への強い説得材料となる企業

  • プロダクトの提供価値を最大化できるパートナー候補

    • 自社プロダクトとの親和性が高く、成功事例としての他企業に展開可能な企業

次に、リストアップした顧客ごとに、効果的なアプローチ方法を検討します。具体的には、以下のようなプロセスが考えられます。

  • キーパーソンの特定

    • リストアップした顧客の中で、導入決定に影響を与えるキーパーソン(役職者、主要な意思決定者など)を特定する

  • 提供価値のカスタマイズ

    • 顧客ごとに求めるゴールや課題が異なるため、事前に仮説を立てつつ、自社プロダクトが課題解決に貢献するポイントを明確にする

  • コンタクトチャンネルの最適化

    • 直接の人脈や既存のネットワークを介した紹介を活用、業界イベントやカンファレンスでの対話など、顧客との接点を複数組み合わせる

こうした顧客をいち早く獲得できれば、そこから広がる波及効果は非常に大きいものとなります。業界内での実績や知名度を通じて、新たな顧客を獲得しやすくなるだけでなく、市場からの信頼度を高める効果も期待できます。

💡 ワンポイント
・「この企業が導入しているなら安心」という信頼感を醸成する実績を重視する
・顧客をリストアップする際には、業界内での影響力や課題の類似性に注目し、優先順位を設定する

4. センターピンの顧客にヒアリングを実施する

「2.」のステップで作成した資料をもとに、センターピンの顧客に対して直接ヒアリングを行います。この段階では、顧客の生の声を聞きながら、課題やニーズをより深く掘り下げていきます。

顧客ヒアリングでは、「顕在課題(顧客が自覚している課題)」「潜在課題(顧客が自覚していない課題)」の両方を整理することが重要です。これにより、単に顧客の要望に応えるだけでなく、彼ら自身が気づいていない真の課題やニーズを見つけることができます。さらに、これらの課題を解決することで提供できる価値や、その価値の重要性、優先順位を顧客の視点から確認していきます。

また、顧客の声を直接聞くことで、自社が提供すべきプロダクトの具体的な輪郭がより鮮明になります。顧客が抱える課題と、それを解決した際に得られる価値の大小を明確にすることで、プロダクトの目指すべき方向性や戦略が具体化します。このプロセスを通じて、提供価値を最大化し、顧客満足度を高めるための指針を得ることができます。

センターピンの顧客に対するヒアリングは、新規事業開発における非常に価値の高い活動です。ここで得られるインサイトは、以降のステップにおける意思決定の精度を大幅に向上させる重要な基盤となります。

💡 ワンポイント
・対面でのヒアリングは、表情や声のトーンも把握でき、顧客との信頼関係を深める助けになる
・事前に資料を共有すると、顧客が考えを整理しやすくなり、スムーズな対話が期待できる。具体的な質問や回答も準備しやすくなる

5. センターピンの顧客にPoCの実施を提案し、契約を獲得する

次に、センターピンの顧客に対し、「顕在課題(顧客が自覚している課題)」を解決することに注力します。現時点でのプロダクトの機能性に加え、テクノロジーやオペレーションを含む人的リソースを活用したPoC(Proof of Concept:概念実証)の実施を提案します。この段階でPoCを実施する目的は、以下の通りです。

  • 顧客が抱える課題の実証

  • 課題を解決できる解決策(ソリューション)の実証

  • 契約の意思確認による収益モデルの実証

PoCの提案活動においては、最低でも3社以上の顧客が「有償契約に発展する」ことを目標にします。これは、収益モデルの検証に加え、顧客自身のPoCに対するコミットメントを高める意図も含まれています。

さら、PoCが成功した際に備え、事前にプレスリリースや事例記事の確約を取っておくことで、後々の事業成長のための布石を打っておきます。

💡 ワンポイント
・PoC実施の目的とゴールを具体的な成果指標として明確化し、事前に顧客との認識をすり合わせておく
・検証内容と観察ポイントを整理し、顧客の使用状況や声を丁寧に把握することで、より質の高いフィードバックを得る

6. PoCの結果から、次フェーズに向けた事業開発計画を策定する

PoC実施後は、得られた定量的・定性的なフィードバックをもとに、以下の点を整理し、次フェーズに向けた「事業開発計画(事業ロードマップ・プロダクトロードマップ)」を策定します。

  • PoCの成果指標の達成度

  • PoCで得られたデータや知見の分析結果

  • ToBe(理想像)とのGAP

  • 優先的に解決すべき課題とリスク

  • 必要な機能の洗い出しと優先順位の設定

  • 今後のリソース配分の適切性

  • スケジュールとマイルストーンの策定

  • 次フェーズの具体的な目標設定

顧客の反応や課題解決の成果は、全体最適の観点から評価することが重要です。この際、PoCの対象顧客だけでなく、PoCに関与した社内のセールス、カスタマーサクセス、エンジニアなどからも多角的にフィードバックを収集します。さらに、必要に応じて将来の顧客層や関連部門にもヒアリングを行い、潜在的な課題やニーズ、利用シーン(業務ユースケース)を把握することで、今後の事業拡張性を探る足がかりとします。

こうして得られたデータや知見をもとに、事業の方向性を再検討し、必要な機能や課題の優先順位を明確化します。このプロセスを通じて、「事業ロードマップ」「プロダクトロードマップ」を作成し、リソース配分やスケジュールを最適化。次フェーズで達成すべき具体的な目標を設定することで、開発効率の向上とリスクの軽減を図ります。

ロードマップに関する資料の一例

これらの取り組みにより、市場に適した提供価値を継続的に「探索」し、それを「進化」させる仕組みが構築されます。さらに、共通基盤やデータを活用して複数のプロダクトを同時に展開し、それらを掛け合わせることで相乗効果を生み出し、成長を加速させるコンパウンド戦略を支える組織能力(ケイパビリティ)の獲得につながると考えています。


さいごに

本稿で “宮原流” としてご紹介したIVRyの新規事業開発プロセスは、あくまでもBtoB SaaSにおける価値ある事業・プロダクトを生み出すための「一つのやり方」にすぎません。実際に試してみた際の感想や、別の視点からのアイデアなどがあれば、ぜひご意見やフィードバックをお寄せください。

私自身、新規事業開発を「天職」だと捉えており、みなさんと共に学びを深めながら、このプロセスをより良いものへと進化させたいと考えています。企業や組織の枠を超えて、時には手を携え、互いに刺激を与え合いながら、一緒に大きな価値を創っていきましょう!


IVRyでは一緒に働く仲間も大募集しています。

2025年1月31日(金)に、IVRyとして初めての自社カンファレンス「シゴトシフト2025 - AIで、現場が楽(ラク)になる」を開催します。
当日は私も、楽天ペイメント株式会社 代表取締役社長 小林様・NRIデジタル株式会社 プロデューサー 吉田様をお迎えし、パネルディスカッションを行わせていただきます。
ぜひ、こちらへのご参加もお待ちしております。


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