強さと可能性
「何かの縁があってそういう関係になったんだから、その可能性にかけてみたら」
気づくとそう口にしていた。
数年ぶりに会った彼女は思ったほどには変わっていなかった。
「たいていの人は、そんな人ダメって反対するから、今言ってくれたことは初めての言葉だよ」と涙ぐみながら彼女は言ったけど、わたしはどうしようもない気持ちをよく知っているだけなのかもしれないと思った。
正論を投げかけて忠告することはむしろたやすい。
この彼女は自分の心で感じ取ったものしか受け入れられないと知っているから、世間一般で常識的と思われている様々な言葉を重ねても無駄だと思った。
それはわたし自身がそうだから。心で感じたことしか信じられない。
相手が最低限の人としての道を守って生活している人であれば大丈夫だと思った。
彼女は、側から見ればマイナスと思える変化や逆境をやわらかく受け止めて、何事もなかったかのように、「わたしは自分の気持ちに正直に生きているだけだよ」と言い切れる強さを持っていた。
「その人はいいところもいっぱいあるんでしょ?そうじゃなきゃ一緒に生活できないよね」
彼女が並べた彼の長所は、とても些細なことばかりだったけど人として大切なことばかりだった。
例えば、毎朝学校なり仕事なりに出かけたり、もしくは一日のやるべきこと、ルーティンや家事を始めたり、約束をきちんと守ろうとしたり、自分の気持ちを相手に伝えようと努めたり。
どんな時でも一緒にいる相手を思いやることのできる人でさえあればいいと思った。
わたしが人を見る時の一番の基準ともいうべきことをその彼は満たしていた。それで十分だと思った。