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際立ってくるもの

本の断捨離が一段落した。

ずっと持ち続けていた当時傾倒していた女性作家の本をすべて手放した。

反動的という言葉を彼女の小説を読んで初めて知った。
世の中の流れに逆行するような生き方という意味で使われていたように思う。
少し昔の多様な生き方をする人たちの、気ままなようで淡々とは行かない日常が、息の長い文章で描かれていた。
時代時代によって違った不自由さはあって理解がおぼつかないこともあるけど、繰り返し丁寧に読めば得るものは必ずあると思って読んでいた。

名作とか古典とか世界文学とか、はまる時期には続けてたくさん読んでしまう。そういう時は何かを待っているさざなみの状態だったように思う。

待つ苦しさを紛らわすために、長くて難解な古典的な名作を読んで、少しでも通じる思想に出会うと、今も昔も変わらない人の心はあるのだと安心した。


今は待っていても何も起こらないことを知って、生活を変えたいなら自分が動くしかないとわかっている。

たいして何も変わらなくていいと思う現状維持の気持ちが長く続いて、ならば身も心も軽くしたいと思うようになった。

この年齢ならこうするべきとか、こうあるべきとか社会通念とか、誰かに何かを求めたり逆に求められたりを超えて、もっと軽やかに生きたいと思った。

文学というものにこだわって、深く物思いに沈み込んでいた頃を懐かしむ気持ちも薄れて来た。
この頃はめっきり小説というものを読まなくなった。

今はストーリーテラーと呼ばれるものより、誰かのエッセイ風の小説が読みたいと思う。

こんな時代、人との交流もどんどん絞られて、無理に交わらなくてよくなった。
身の上話も打ち明け話もずいぶんとご無沙汰だ。
誰かの綴る文章でそれに近いものに触れられたら、それで満足できることもわかった。
少し寂しいことだけど。

それでも関わることが自然に引き寄せられるような人とだけ、距離を取りながら少しの時間でも他愛もない言葉を交わし、微笑み合えたらいいなと思っている。


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