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もの言いたげな沈黙

先生とわたしはちょうど一回り歳が離れていた。そのことがわかったのは二人が出会ってからしばらく経った頃で、それまではもっとずっと歳の近い人だと思い込んでいた。

実際に彼は若く見えた。初めて言葉を交わしたあの日、彼がわたしを見る眼差しに不思議な親しみを覚えて、あの時のわたしは「ああ、ここからわたしたちは始まるのだな」と思った。

そんな懐かしさを感じる眼差しとは裏腹に、先生はビジネスライクに形式ばった初対面の挨拶をして「じゃあ、これからお世話になります」と言った。わたしは努めて明るく「よろしくお願いします」と言葉を返した。

今思い返しても不可解だ。なぜか先生はわたしを包み込むように見て、しばらくそこに立ちつくしていた。何か?と尋ねたくなるくらいに、もの言いたげな沈黙がそこにあった。

それから数時間後、仕事を終えてバス停に向かい、そこでばったりと先生に出会った。やっぱり始まるのだとさらに意を強くしたのだった。

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